「仇討ちの話」と聞くと、重くてシリアスなイメージを持つ人が多いと思います。
でもこの『研辰の討たれ』は、ちょっと違う。
けっこう笑えるし、テンポも軽い。
なのに見終わると、なんかスッキリしない。
この“ズレた後味”が、この作品のいちばんの魅力です。
『研辰の討たれ(とぎたつのうたれ)』あらすじ
主人公は、もともと刀研ぎ職人だった守山辰次(通称・研辰)。
たまたま殿様の刀を研いだことがきっかけで、武士に取り立てられます。
ただし中身はそのまま町人。
- 武士の教養 → よくわからない
- 礼儀 → とりあえず適当
- 世渡り → めちゃくちゃ上手い
こんな感じの、かなり調子いい男です。
当然、周りの武士たちからは嫌われます。
とくに家老・平井市郎右衛門からは、かなりキツく当たられる。
で、どうなるかというと——
キレて殺す(しかも正面じゃなくて落とし穴)
ここ、いきなりズルい。
逃げる研辰、追う兄弟
殺された市郎右衛門の息子、九市郎と才次郎は仇討ちへ。
ここからはシンプルに
- 逃げる研辰
- 追う兄弟
の構図になるんだけど、この作品の面白いところはここから。
普通なら
追う側=正義
逃げる側=悪
でキレイに分かれるはずなのに、だんだんそうでもなくなってきます。
倶利伽羅峠の“やりすぎ”シーン
途中、倶利伽羅峠で事件が起きます。
研辰、なんと兄の九市郎を谷に突き落とす。
普通に考えたら完全アウトなんだけど、この作品だと
卑怯すぎて逆にちょっと笑える
ここがこの演目のクセ。
シリアス一辺倒じゃなくて、“人間のダサさ”をそのまま見せてくる。
3年後、ついに追いつく
長い追跡の末、舞台は四国の善通寺へ。
ここで空気が変わります。
僧が兄弟にこういうことを言うんですね。
「その仇討ち、本当にやる意味ある?」
この一言で、兄弟の中に迷いが生まれる。
まさかの「許す」→でも結局…
ついに追い詰めた研辰。
普通ならここで討つんだけど——
一回、許す
これがこの作品の一番おもしろいところ。
ただし、そこで終わらない。
結局、研辰は討たれるのです。
研辰ってどんなキャラ?
正直に言うと、かなりダメなやつです。
- 卑怯
- 口だけ
- すぐ命乞い
でも妙にリアル。
「こういう人いるよな…」って思ってしまうタイプ。
だからこそ、
討ってもスッキリしない
この作品、実はけっこう新しめ
『研辰の討たれ』はバリバリの江戸時代の古典ではなくて、1925年に作られた作品。
- 原作:木村錦花
- 脚色:平田兼三
- 初演:二代目の市川猿之助
- 上演:歌舞伎座
だから心理描写がかなり現代っぽい。
見どころ3つだけ押さえればOK
① 研辰のトーク力
→ 空気を変える“口の強さ”がすべて
② 追いかけっこのテンポ
→ 重くなりすぎない絶妙なバランス
③ ラストの違和感
→ スッキリしないのが正解
まとめ
『研辰の討たれ』は、
- 仇討ちの話なのに笑える
- でも最後はちょっと苦い
という、かなり珍しいタイプの歌舞伎です。
スカッとしたい人には向かないけど、
「人間ってこうだよな」と思えるリアルさがある。
この“気持ちよく終わらない感じ”、クセになります。




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