コクーン歌舞伎とは?串田和美×中村勘三郎が生んだ革新の舞台をわかりやすく解説

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コクーン歌舞伎

「コクーン歌舞伎って普通の歌舞伎と何が違うの?」「串田和美ってどんな人?」——歌舞伎に詳しくなってくると必ず耳にするこの名前、実は歌舞伎の枠組みを大きく広げた革新的な公演シリーズです。
この記事では、コクーン歌舞伎の成り立ちから特色、歴代の演目、そして劇場休館中の現在の状況まで、初心者にもわかりやすくまとめました。同じ演出家・串田和美による新演出の『四谷怪談』や『桜姫』がどのように生まれ変わったのか、あわせて押さえておきましょう。

一言でいうと

コクーン歌舞伎は、東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーンを舞台に、1994年から続く歌舞伎公演シリーズです。十八代目中村勘三郎と演出家・串田和美がタッグを組み、古典の名作を大胆に読み直す実験的な演出で、歌舞伎ファン以外からも熱狂的に支持されてきました。

目次

コクーン歌舞伎とは?基本情報

コクーン歌舞伎(こくーんかぶき)は、東京・渋谷のBunkamura内にある劇場「シアターコクーン」で行われてきた歌舞伎公演です。
1994年5月、歌舞伎役者の十八代目中村勘三郎(初演当時は五代目中村勘九郎)と三代目中村橋之助らが『東海道四谷怪談』を上演したのが始まりです。
以後、勘三郎を中心に、九代目中村福助、橋之助、二代目中村勘太郎(現・六代目中村勘九郎)、二代目中村七之助といった花形・若手役者が出演し、おおむね1〜2年に一度、約1ヶ月間の公演を重ねてきました。
会場にあえて歌舞伎座ではなく、若者の街・渋谷のシアターコクーンを選んだのも、「若い人にも歌舞伎を親しんでほしい」という勘三郎の思いによるものだったといわれています。

特色|古典を大胆に読み直す演出

コクーン歌舞伎最大の特色は、古典歌舞伎の演目を一から読み直し、現代的な感覚を重ね合わせて上演する点にあります。
本物の水を使う「本水」、泥を使う「本泥」といった仕掛けはもちろん、石野卓球や椎名林檎といった現代のポップミュージシャンを起用した演出が話題を呼んできました。
たとえば2007年の第8弾『三人吉三』(再演)では、椎名林檎の新譜『玉手箱』がメインテーマ曲として使われるなど、ジャンルの垣根を越えたコラボレーションが積極的に行われています。
こうした奇抜な仕掛けは、歌舞伎の伝統的な演出用語でいう外連(ケレン)の現代版ともいえるでしょう。観客を驚かせ、楽しませるという発想そのものは、実は歌舞伎が江戸時代から大切にしてきた精神と地続きなのです。

客席のつくりも通常の歌舞伎とは異なり、1階席の前方には椅子ではなく座布団に座る「平場席」が設けられます。
シアターコクーンでは通常、客席での飲食は禁止されていますが、コクーン歌舞伎の公演中は特別に飲食が認められている点も、他にはない大きな特徴です。

歌舞伎座とは違う客層・雰囲気

シアターコクーンは、歌舞伎座のような専用劇場ではなく、演劇やコンサートなど幅広いジャンルの公演が行われる多目的劇場です。
そのため客席には、ふだん歌舞伎座に足を運ばない現代演劇のファンや若い世代の観客も多く、独特の熱気に包まれるのもコクーン歌舞伎ならではの魅力です。
「歌舞伎座は敷居が高そう」と感じている方にとっては、コクーン歌舞伎がむしろ歌舞伎そのものへの入り口になるケースも少なくありません。
チケットの入手方法や座席の選び方も歌舞伎座とは異なる部分があるため、再開後に観劇を予定している方は公式サイトで最新の販売方法を事前に確認しておくと安心です。

コクーン歌舞伎の歴史|第1弾『四谷怪談』から現在まで

演出家・串田和美が生んだ実験精神

1996年の第2弾『夏祭浪花鑑』以降、コクーン歌舞伎の演出を担っているのが、初演当時にシアターコクーンの芸術監督を務めていた串田和美(くしだ かずよし)です。
串田は2006年の『東海道四谷怪談・北番』で読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞するほか、2005年の第6弾『桜姫』でも芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど、歌舞伎界の外からその演出力を高く評価されてきた人物でもあります。

歴代の主な演目

これまでのコクーン歌舞伎、全18回の上演記録は次のとおりです。

弾数上演時期演目備考
第1弾1994年5月東海道四谷怪談十八代目中村勘三郎(当時五代目中村勘九郎)らが初演
第2弾1996年8月夏祭浪花鑑串田和美が演出を担当開始
第3弾1998年9月盟三五大切(南番・北番)配役入れ替えの2バージョンで上演
第4弾2001年6月三人吉三
第5弾2003年6月夏祭浪花鑑(再演)
第6弾2005年6月桜姫勘三郎は襲名公演のため出演せず、福助・橋之助が中心。串田が芸術選奨文部科学大臣賞を受賞
第7弾2006年3〜4月東海道四谷怪談(南番・北番)南番は再演、北番は新作。串田が読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞
第8弾2007年6月三人吉三(再演)椎名林檎の新譜がテーマ曲に使われた
第9弾2008年6月夏祭浪花鑑(再々演)平成中村座ヨーロッパ公演の凱旋記念として上演
第10弾2009年7月桜姫(再演)
第11弾2010年6月佐倉義民傳十八代目中村勘三郎が結果的に主演した最後の舞台
第12弾2011年6月盟三五大切(再演)中村橋之助(三代目)・尾上菊之助(五代目)・中村勘太郎(二代目)ら出演
第13弾2012年6〜7月天日坊原作は河竹黙阿弥、脚本は宮藤官九郎、主演は六代目中村勘九郎
第14弾2014年6月三人吉三20周年記念。中村勘九郎・中村七之助・尾上松也が出演
第15弾2016年6月四谷怪談第7弾(北番)をベースにさらに進化させた構成で上演
第16弾2018年5月切られの与三原作は瀬川如皐『与話情浮名横櫛』、補綴は木ノ下裕一。二代目中村七之助が主演
第17弾2021年5月夏祭浪花鑑六代目中村勘九郎が主演
第18弾2022年2月天日坊(第13弾の再演)

なかでも『夏祭浪花鑑』は、第2弾(1996年)、第5弾(2003年再演)、第9弾(2008年再々演、平成中村座ヨーロッパ公演の凱旋記念として上演)、第17弾(2021年)と、シリーズを通じてもっとも繰り返し取り上げられてきた人気演目のひとつです。
『桜姫』(桜姫東文章)も第6弾(2005年)・第10弾(2009年再演)と2度上演されており、同じ演目を掘り下げながら進化させていくのも、コクーン歌舞伎らしい特徴といえます。

記念すべき第1弾と、22年後の第15弾がどちらも『四谷怪談』だったことは、コクーン歌舞伎の“原点回帰”を象徴する出来事といえます。
第15弾『四谷怪談』は、映像作品「NEWシネマ歌舞伎」としても記録されており、劇場に足を運べなかった方でも当時の舞台の熱量を味わうことができます。
NEWシネマ歌舞伎は、単に舞台を定点で記録する通常の「シネマ歌舞伎」とは違い、あとで映像として見ることを前提にカメラ割りや編集を作り込む新しい試みで、2015年公開の『三人吉三』に続く第2弾として2017年に劇場公開されました。

中村屋が受け継ぐ革新の精神|勘三郎から勘九郎・七之助へ

コクーン歌舞伎の生みの親である十八代目中村勘三郎は、2010年6月の第11弾『佐倉義民傳』が結果的に主演した最後の舞台となり、2012年に57歳の若さで急逝しました。
勘三郎は同じ時期に、浅草に仮設の芝居小屋を建てて上演する平成中村座も立ち上げており、「歌舞伎を観客のいる場所へ届ける」という信念のもと、既存の枠組みにとらわれない挑戦を重ねた役者でした。

勘三郎の死後は、長男の六代目中村勘九郎と次男の中村七之助が、コクーン歌舞伎・平成中村座双方の中心的な担い手としてその精神を受け継いでいます。
第13弾・第18弾『天日坊』での勘九郎の主演や、第16弾『切られの与三』での七之助の主演は、その代表例です。
近年は、映画『四谷怪談』で伊右衛門を演じた中村獅童のように、中村屋以外の役者も重要な役どころでコクーン歌舞伎に参加しています。

『天日坊』は、幕末の河竹黙阿弥による原作「吾嬬下五十三次駅」をもとに、脚本家・宮藤官九郎が大胆に脚色した異色作としても知られています。
宮藤官九郎のようにテレビドラマや映画で活躍する脚本家が歌舞伎の脚本を手がけるという組み合わせ自体が当時大きな話題となり、長らく上演の絶えていた古典に新たな命を吹き込んだ好例として語り継がれています。

現在のコクーン歌舞伎はどうなっている?

シアターコクーンは長期休館中

本拠地であるBunkamuraは、「Shibuya Upper West Project」と呼ばれる再開発計画にともない、オーチャードホールを除いて2023年4月10日から長期休館中です。
運営会社の東急文化村によれば、再開は2027年度中を予定していますが、具体的な時期は本記事執筆時点(2026年8月)でもまだ未定とされています。
そのため、シアターコクーンという“本拠地”で行われる正式な「コクーン歌舞伎 第◯弾」は、2022年2月の第18弾『天日坊』(第13弾の再演)を最後に、しばらく実施されていません。
休館前は展覧会や現代演劇、コンサートなど多彩なプログラムが組まれていたBunkamura全体が、渋谷の再開発とともにどのような姿で生まれ変わるのかにも注目が集まっています。

「歌舞伎町大歌舞伎」として精神は受け継がれている

本拠地が休館中の間も、中村勘九郎・中村七之助による挑戦は止まっていません。
2024年5月には、新宿・東急歌舞伎町タワー内の劇場「THEATER MILANO-Za」で『歌舞伎町大歌舞伎』が上演されました。
荒事の豪快さと華やかさを併せもつ曽我物の舞踊『正札附根元草摺』、4人の雷たちの騒動を一人で踊り分ける『流星』、落語「貧乏神」を題材にした新作歌舞伎『福叶神恋噺』という3演目が組まれ、勘九郎・七之助に加え、中村虎之介、中村鶴松ら若手も出演しました。
コクーン歌舞伎そのものの続編・新作というわけではありませんが、Bunkamuraの制作クレジットのもとで行われた公演であり、コクーン歌舞伎・平成中村座を牽引してきた勘九郎・七之助が新たな劇場でも挑戦を続けている好例といえます。
シアターコクーンが本格的に再開した際には、あらためて「コクーン歌舞伎」としての新作・再演が発表される可能性が高いでしょう。

この流れは2026年も続いており、歌舞伎町大歌舞伎として新たな演目が上演されています。

よくある質問(FAQ)

コクーン歌舞伎と普通の歌舞伎座の公演はどう違いますか?

コクーン歌舞伎は、古典の演目を現代的な感覚で大胆に演出し直す実験的な公演です。
本水・本泥の使用や現代のミュージシャンとのコラボレーション、座布団席の設置、客席での飲食が可能な点など、通常の歌舞伎公演とは異なる自由な雰囲気が特徴です。

コクーン歌舞伎は今も観られますか?

本拠地のシアターコクーンは2023年4月から長期休館中で、再開は2027年度中を予定しています(2026年8月時点で詳細時期未定)。
そのため新作の「コクーン歌舞伎」は現在実施されていませんが、過去作品はNEWシネマ歌舞伎として映画館で上映される機会があります。

串田和美とはどんな人ですか?

串田和美は、1996年以降コクーン歌舞伎の演出を担当してきた演出家です。
初演当時はシアターコクーンの芸術監督を務めており、2006年の『東海道四谷怪談・北番』では読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞しています。

初心者がコクーン歌舞伎から歌舞伎デビューしても大丈夫ですか?

はい、おすすめです。
古典を現代的な感覚で見せる演出が多いため、伝統的な様式に慣れていない方でも物語に入り込みやすく、実際に歌舞伎初心者の入り口として人気の高い公演シリーズです。再開後の公演情報は公式サイトで随時確認しましょう。

同じ演目が何度も上演されているのはなぜですか?

『夏祭浪花鑑』や『桜姫』のように、シリーズを通じて複数回上演されている演目があります。
再演のたびに配役や演出の細部が見直され、進化を重ねていく点も、コクーン歌舞伎の醍醐味のひとつとされています。

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歌舞伎とは?初心者向けにわかりやすく解説

まとめ

コクーン歌舞伎は、1994年の『東海道四谷怪談』を皮切りに、十八代目中村勘三郎と串田和美が古典歌舞伎の可能性を大きく広げてきた公演シリーズです。
本水・本泥といった仕掛けや現代ミュージシャンとのコラボレーション、座布団席や客席での飲食が可能な自由な雰囲気など、伝統的な歌舞伎座の公演とは一線を画す魅力にあふれています。
勘三郎の死後も、六代目中村勘九郎・中村七之助がその精神を受け継ぎ、シアターコクーン休館中の現在も新たな劇場で挑戦を続けています。
本拠地の再開が待ち遠しい一方で、これまでの歴代作品を振り返っておくことで、再開後の新作コクーン歌舞伎をより深く楽しめるはずです。

コクーン歌舞伎の原点であり、記念すべき第1弾・第15弾の題材にもなった代表作『四谷怪談』については、以下の記事もあわせてご覧ください。

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