大阪松竹座さよなら公演『坂東玉三郎 大阪松竹座名残の華』
追加された初日公演を観劇してまいりました!
坂東玉三郎 大阪松竹座名残の華
この日の演目は
御名残口上
由縁の月
残月

口上
幕開きの『御名残 口上』では、玉三郎さんが裃姿で登場し、まずは
「大阪松竹座が5月に閉館する前に、一度ご挨拶させていただきたく御名残公演をさせていただくことにしました」
と名残のご挨拶。
続いて一門の方々を舞台へと招き、そろって客席に向かい丁寧に頭を下げられました。
その光景は、長年積み重ねてきた芸の歴史と絆を感じさせる、格別のひとときでした。
また本公演については、「公演の合間を縫って上演させていただく“すきま公演”です」とユーモアを交えて語られ、客席を和ませる場面も。
その後、打掛披露のためにお着物へと着替えられる間には、40年前に撮影された『稲舟』の映像が上映されました。
若き日の舞姿がスクリーンに映し出され、時を超えてよみがえる美しさに、場内は静かな感慨に包まれました。
萩江 稲舟
「萩江 稲舟」は、はじめは“嫌というほどでもない”――そんな軽い気持ちで逢い始めた相手が、いつしか片時も忘れられない存在となってしまう。
そんな恋に揺れる女心を描いた一曲です。
設定は遊女の恋。
身の上ゆえに思いのままにならない立場の中で、次第に募っていく情が、しっとりと綴られます。
「稲舟」とは、刈り取った稲穂を積み、水上を運ぶ小舟のこと。同時に、「否(いな:稲)にはあらず、逢い始めて」という詞章を引き出すための掛詞にもなっています。
言葉遊びの妙を用いながら、次第に深まる恋心をほのやかに表現するところに、古典ならではの奥ゆかしさと情趣が感じられます。
華やかさの奥に潜む、しみじみとした恋の余韻を味わえる作品です。
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萩江 稲舟の歌詞
稲舟のいなにはあらず逢い初めて
今は焦がるる最上川
逢うたその夜の移り香を
我が袖ながら抱きしめて
寝ても寝られぬ床の内
硯ひきよせする墨の
音さえ人に洩るるやと
文の文字さえ秋霧の
空に消え行く雁の
おぼつかなしや灯火の
光もうすき閨の内
暁近き草の葉ならで
袖にも置くや露の玉
打掛を4種ご披露
これまで実際に舞台で着用してきた、お正月らしい華やかな打掛の衣裳解説を交えての『口上』―
そんな趣向が凝らされた、今回ならではの充実したひと幕でした。
披露された打掛は、『傾城』や『天守物語』の富姫、そして『吉田屋』の夕霧など、いずれも名場面を彩ってきた豪華絢爛な逸品ぞろい。
客席にもよく見えるように上手、下手へ動いて見せながら解説
錦繍のきらめき、格調高い意匠、役柄の情感を映す色彩――そのあまりの美しさに、客席からは思わずため息がもれる場面もありました。
舞台衣裳という枠を超え、芸の歴史と美意識を間近に感じられる、贅沢なひとときです。
天守物語からはお2つ
『傾城』からは紫の孔雀
『吉田屋』からは赤の鳳凰を披露されました。
また
坂東玉三郎さんは、口上の最後で イタリア・ヴェネチアにある劇場フェニーチェ劇場のエピソードに触れられました。
フェニーチェ劇場は、これまでに二度の大火災で焼失。
しかしそのたびに、ヴェネチア市民の強い思いによって再建されてきました。
とりわけ1996年の火災後は、市民の支えのもと、約8年をかけ、120億円もの巨費を投じて、かつての姿を忠実に再現。まさに“不死鳥(フェニーチェ)”の名の通り、よみがえった劇場です。
その話を重ねながら語られたのが、大阪松竹座の閉館について。
玉三郎さんの言葉からは、松竹座もまた、いつの日か復活してほしいという、静かな祈りのような願いが感じられました。
焼け落ちても甦ったフェニーチェ劇場のように。 人々の想いがつながるかぎり、舞台の灯は消えない――そんな余韻を残すお話でした。
由縁の月
宝暦年間(1751~1764)にはすでに成立していたとされる、鶴山勾当作曲の地唄舞。
作詞者は不明ですが、「夕霧伊左衛門」の物語に取材した作品と伝えられています。
モデルとなった夕霧は、京都・島原から大坂新町へ移った揚屋・扇屋抱えの名高い遊女。
全盛を誇りながらも、わずか27歳でこの世を去りました。
その早すぎる死を悼み、多くの歌舞伎作品が生まれ、最初に上演されたのが、死の翌月に初演された『夕霧名残の正月』です。
本曲の題名は、詞章中の「すむは由縁の月の影…」の一節に由来するといわれています。
内容は、思いがけない男に身請けされた遊女が、苦界と思っていた廓を離れることで、かえって愛しい人に会えなくなるという皮肉な運命を、水面に映る月影に託して嘆くもの。
由縁の人を慕う女性の寂しさと憂い、その中に漂う艶やかな色気とほのかな華やぎ――。
美しい旋律とともに味わう、しっとりとした情趣あふれる地唄舞です。
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由縁の月の歌詞
憂しと見し 流れの昔 懐かしや
可愛い男に逢坂の 関より辛い世の習ひ
思はぬ人にせきとめられて 今は野沢の一つ水
すまぬ心の中にも暫し すむは縁の月の影
忍びて映す窓の内 広い世界に住みながら
狭う楽しむ誠と誠 こんな縁(えにし)が唐(から)にもあろか
花咲く里の春ならば 雨も薫りて名や立たん
残月
「残月」は、天明・寛政期に大坂で活躍した峰崎勾当による作品です。
峰崎勾当は、自由で変化に富んだ作風で知られ、端唄の名曲『雪』をはじめ多くの佳作を残しました。
一方で、手事物の分野でも優れた作品を生み出し、「残月」もその代表作の一つに数えられます。
本曲は長大な手事を持ち、巧みな転調と高度で複雑な三味線技巧が特徴。音楽的な構成美の中に、深い情趣が込められています。
詞章には
「磯辺の松に葉隠れて 沖の方へと入る月の光や
夢の世を早う覚めて 真如の明けらけき月の都に住むやらん」
とあり、松の葉に隠れながら沖へと沈む月の姿に、この世のはかなさと浄土への憧れを重ねています。
この曲は、峰崎勾当の門下の息女が早世したことを偲んで作られた代表的な追善曲。
見え隠れする月影に、若くして生を終えた命の儚さを託し、静謐な美しさの中に深い哀惜を表現します。
地唄舞としては、静と動の緩やかな対比の中に、月の情景と心情がにじみ出る珠玉の一曲。
しみじみとした余韻を味わえる名作です。

照明にスモーク、舞台の使いっぷりが見事で、まことに幻想的でござんした。
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残月の歌詞
磯辺の松に 葉隠れて
沖の方へと入る月の
光や夢の世を早う
覚めて真如の明けらけき
月の都に住むやらん
今はつてだに朧夜の
月日ばかりは巡り来て
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歌舞伎とは?初心者向けにわかりやすく解説


まとめ
5月で閉館する大阪松竹座。
玉三郎さんが出演する公演はこれが最後ということもあり、
最後は鳴りやまぬ拍手に包まれ、カーテンコールも行われました。
初日にふさわしい、華やかな打ち出しです。
客席は圧倒的に女性ファンが多く、男性ひとりでの参加には少し肩身の狭さを覚えるほど。
しかし、玉三郎さんが舞台に姿を現した瞬間、場内の空気は一変します。
静かに立つ、その佇まいだけで空間が引き締まり、座しているだけでも、長年の修練がにじみ出る。
言葉を発する前から、圧倒的な存在感が客席を包み込みます。
あまりの神々しい美しさに、思わずため息が漏れる場面も見られました。
華やかでありながら、どこか儚く、そして気高い。
それが、坂東玉三郎さんの『名残の華』公演。
まさに“名残”の名にふさわしい、心に深く刻まれる舞台でした。




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