棒しばり(ぼうしばり)とは、歌舞伎の中でもとくに人気の高い狂言由来の滑稽な舞踊劇で、家来が主人の留守中に酒を飲もうとして失敗と工夫を重ねる、ユーモアあふれる演目です。
棒しばりとは?
棒しばり(ぼうしばり)とは、歌舞伎の中でもとくに人気の高い狂言由来の滑稽な舞踊劇です。
家来が主人の留守中に酒を飲もうとして失敗と工夫を重ねる、ユーモアあふれる演目です。
もともとは能楽の流れをくむ狂言『棒縛(ぼうしばり)』が原作の松羽目物(まつばめもの)のひとつ。歌舞伎ではこれを舞踊化し、せりふよりも身体表現とリズム感のある動きで笑いを生み出す作品として上演されます。
初演時、六世尾上菊五郎と七世坂東三津五郎が大当りをとった演目で、以降は子・孫・ひ孫とコンビを組んで上演されることが多い、世代を超えて受け継がれる演目です。
近年では十八代目中村勘三郎と十代目坂東三津五郎の名コンビが名舞台を残しており、現在は六代目中村勘九郎と中村巳之助がその流れを継いで上演しています。
2020年8月の歌舞伎座「八月花形歌舞伎」では、勘九郎が次郎冠者を演じ、縛られたままの卓越した身体表現で大きな笑いと感動を生みました。
『棒しばり』のあらすじ解説
田舎の大名・曽根松兵衛は、酒好きの家来である次郎冠者と太郎冠者が、自分の留守中にいつも酒を盗み飲みしてしまうことに頭を悩ませていました。
とくに次郎冠者は抜け目のない男で、どんな手を使っても酒にありつこうとするため、松兵衛はついに一計を案じます。
まず松兵衛は太郎冠者を呼び出し、次郎冠者が留守中に酒を盗み飲まないよう、懲らしめる方法はないかと相談します。
太郎冠者は、自分は疑われていないと安心し、次郎冠者が棒術を得意としていることを思い出します。
そして、その技を披露させた隙に、二人がかりで次郎冠者を棒に縛りつけてしまいましょうと提案します。
この案に松兵衛は大いに喜んで、すぐに次郎冠者を呼び出し棒術を披露させようとします。
何も知らない次郎冠者は、はじめは渋りますが、松兵衛が「先に自分が舞を見せるから、その後で棒術を見せてほしい」と言うため、ついに折れて技を披露し始めます。
やがて次郎冠者が「夜の棒」と呼ばれる、両腕を横に伸ばして肩に棒をかつぐ型を見せた瞬間、松兵衛と太郎冠者は用意していた白布で、次郎冠者の両腕を棒に縛りつけてしまいます。
さらに、次郎冠者を縛りつけて油断していた太郎冠者も松兵衛の手によって後手に縛り上げられ、これで二人とも酒を盗み飲みできまいと、松兵衛はしたり顔で出かけていきます。
まんまと松兵衛の計略にはまってしまった二人、しかし、酒への執念は容易に消えません。
縛られたままの不自由な身で、二人は酒蔵へと忍び込み、互いに知恵を出し合いながら、なんとか樽から酒を汲み出すことに成功します。
やがて、したたかに酔った二人は、酒の肴にとそれぞれ舞を踊り始め、次第に気分も高揚して、二人で連舞を舞うほどの騒ぎとなります。
そこへ松兵衛が戻ってきて、酒を盗み飲みした二人に怒り、打ち据えようとします。
しかし、すでに酔ってろれつの回らなくなった太郎冠者、次郎冠者は逆に棒を振り回して主人を追い回す始末となります。そこに太郎冠者も加わり、三人が入り乱れて追いかけ合う大騒動のうちに、物語は幕を閉じます。
主な登場人物(棒しばり)
次郎冠者(じろうかじゃ)
無類の酒好きで、知恵と機転に富んだ家来です。
主人の計略によって両腕を棒に縛られてしまいますが、それでも酒をあきらめず、太郎冠者と協力して酒蔵に忍び込みます。
酔いが回ると大胆さを増し、最後には主人を追い回すほどの勢いを見せる、物語の中心となる人物です。
近年の当たり役:六代目中村勘九郎、十八代目中村勘三郎
太郎冠者(たろうかじゃ)
次郎冠者と同じく酒好きの家来で、どこかお調子者な性格です。
最初は松兵衛の相談に乗る形で次郎冠者を縛る計略に加わりますが、油断したところを自分も後手に縛られてしまいます。
次郎冠者と息を合わせて酒を飲み、連舞を踊るなど、物語の滑稽さを引き立てる相棒的存在です。
近年の当たり役:中村巳之助、十代目坂東三津五郎
曽根松兵衛(そね まつべえ)
田舎の大名で、酒好きの家来たちに手を焼いています。
とくに抜け目のない次郎冠者の行動を警戒し、太郎冠者を巻き込んで計略をめぐらせ、二人を縛り上げる発案者です。厳格な主人として振る舞いながらも、最後には家来たちの滑稽な反撃に振り回される存在でもあります。
見どころ(棒しばり)
縛られた身体で生まれる身体表現の妙
両腕を棒に縛られた次郎冠者と、後手に縛られた太郎冠者が、口や肩、体全体を使って酒を飲もうとする姿は、最大の見どころ。
腕を使えない中で、役者がどこまで感情や喜び、焦りを表現できるか、その技量がはっきりと表れます。
次郎冠者の棒術と扇子の妙技
冒頭で披露される次郎冠者の棒術は、力強さと軽やかさを併せ持つ型の美しさが際立つ場面。
とくに、縛られたまま左手から右手へと扇子を投げ渡す所作は、観る者の視線を一気に引きつける名場面で、役者の高度な技と集中力が求められます。
狂言から歌舞伎舞踊へと発展した様式美
原作は狂言の『棒縛』ですが、歌舞伎ではこれを舞踊化し、せりふよりも謡や音楽、リズミカルな動きを重視した演出となっています。
笑いの中に洗練された踊りの美しさを感じられる点が特徴です。
二人の息の合ったコンビネーション
次郎冠者と太郎冠者が、互いに知恵を出し合いながら酒を汲み、飲ませ合う場面は、まるでコンビ芸のような楽しさがあります。
役者同士の間や呼吸がぴたりと合うほど、舞台の面白さが際立ちます。
酔態から連舞へと高まる舞台のリズム
酒を飲み、ほろ酔い気分から次第に興が乗っていくにつれて、動きや謡、舞が大きくなり、舞台全体のリズムが高まっていきます。
静から動へと展開する構成が、観る者を自然と物語の中へ引き込みます。
主人との追いかけ合いが生むクライマックス
最後に主人・松兵衛が戻ってきて、三人が入り乱れて追いかけ合う場面は、緊張と滑稽さが同時に高まるクライマックスです。
計略をめぐらせた主人が、逆に振り回される結末が、爽快な笑いと余韻を残します。
こんな人におすすめ
- 歌舞伎が初めてで、まず笑える演目から観たい
- 中村勘九郎・中村巳之助のコンビを観てみたい
- 舞踊ものに興味がある
実際に観た感想・席の選び方・評価レーティングは観劇日記はこちら




コメント