歌舞伎の立ち回り(殺陣)を見ていると、斬られた相手役が勢いよく宙返りして倒れる場面に出会うことがあります。
この技法は「とんぼ」と呼ばれ、立ち回りの中でもとりわけ目を引く見どころのひとつです。
この記事では、とんぼの意味や由来、実演する役柄、種類、代表的な演目まで、初めての方にもわかりやすく解説します。
とんぼとは?立ち回りで見せる宙返りの技法
とんぼとは、立ち回りの最中に主役から斬られたり投げ飛ばされたりしたときに見せる宙返りのことです。
この動作を「とんぼを返る」と表現し、歌舞伎では漢字で「筋斗(とんぼ)」と表記されます。
単なる宙返りではなく、勢いよく体を投げ出しながら一回転して着地する、様式化された演技である点が特徴です。
とんぼは、斬られた側が「やられた」という衝撃を大きく誇張して見せるための演技とされています。
似た技法に「ぎば」と呼ばれる型もあり、とんぼは体全体を宙に投げ出す、より大きく派手な動きとされています。

名前の由来
とんぼという名前の由来には諸説があり、昆虫のトンボが体の向きを素早く翻す様子になぞらえたという説がよく語られますが、確定した典拠は確認できていません。
鮮やかに決まったとんぼは、散り際の花びらが舞う美しさになぞらえて「立ち回りの中に散る美しい花びら」と評されることもあります。
一瞬で終わる動作でありながら、役者の技量と美意識が凝縮された見せ場といえるでしょう。
実演するのはどんな役柄?
とんぼは、あくまで主役の活躍を引き立てるための演技とされ、多くは軍兵や捕手など、斬られ役・やられ役にあたる脇の役者が返ります。
特に集団で立ち回りを演じる「花四天(はなよてん)」と呼ばれる捕手役は、とんぼを返る場面が多いことで知られています。
とんぼを美しく安全に返るには、日々の鍛錬に裏打ちされた高い身体能力が欠かせません。
国立劇場の俳優研修などでも基本技術として稽古されており、最も基本的でありながら最も重要な技術のひとつに位置づけられています。
とんぼの種類
とんぼにはいくつかの型があるとされ、着地の仕方や動きの向きによって呼び分けられます。
代表的なものとして、くるりと回って立ち上がる「返り立ち」、人や物を飛び越えながら回転する「返り越し」などが挙げられます。
また、屋根や土手など高い場所から宙返りしながら飛び降りる場合は「返り落ち(かえりおち)」と呼ばれ、舞台の高低差を活かした迫力ある見せ場になります。
これらの呼び名や分類には資料によって幅があるとされ、細かな型の名前を覚えるより、まずは「宙返りにも複数の種類がある」と知っておくと見え方の違いに気づきやすくなります。
代表的に見られる演目・場面
とんぼは特定の演目に限らず、立ち回りのある作品であれば幅広く見られる演技です。
中でも『南総里見八犬伝』の「芳流閣の場」は、花四天がとんぼを返りながら繰り広げる立ち回りの名場面として知られています。
また『倭仮名在原系図』の「蘭平物狂」も、大梯子を使った大立廻りで知られる演目です。
こうした立ち回りは、花道を舞台の一部として使いながら展開されることも多く、客席のすぐそばで役者が宙返りする迫力を味わえる場合もあります。

観劇のときの見どころ
とんぼを観劇するときは、主役の刀さばきだけでなく、斬られる側の動きにも注目してみましょう。
誰か一人が大きなとんぼを決めると、そこに視線が集まり、立ち回り全体にメリハリが生まれます。
複数の役者が息を合わせて次々ととんぼを返す群舞のような場面は、個々の技術と集団としての呼吸の両方が試される見せ場です。
とんぼの決まり方や着地の音、体の投げ出し方には役者ごとの個性が表れるため、配役による違いを見比べるのも楽しみ方のひとつです。
よくある質問(FAQ)
- 歌舞伎の「とんぼ」とはどういう意味ですか?
-
立ち回りの最中に、主役に斬られたり投げ飛ばされたりした役者が見せる宙返りのことです。
「とんぼを返る」と表現され、漢字では「筋斗」と書きます。 - なぜ「とんぼ」と呼ばれるのですか?
-
昆虫のトンボが急に身を翻して飛ぶ様子に見立てたとされる説がよく知られています。
諸説あり、確定的な由来として一つに定まっているわけではありません。 - とんぼは誰が演じるのですか?
-
主役の活躍を引き立てる演技のため、多くは軍兵や捕手、花四天などの脇の役者が担います。
- とんぼとぎばはどう違うのですか?
-
ぎばは体を傾けて倒れ込む型で、とんぼは体全体を宙に投げ出す動きです。
立ち回りでは、こうした型を組み合わせることで緩急のついた見応えのある殺陣が生まれます。
歌舞伎が初めての方へ
歌舞伎自体が初めてだと「どう観ればいいの?」と迷うこともあるかもしれません。
歌舞伎には独特の約束ごとや表現がありますが、基本を少し知っておくだけで、面白さがぐっと伝わりやすくなります。
歌舞伎とは?初心者向けにわかりやすく解説

まとめ|とんぼは立ち回りを彩る宙返りの技
とんぼは、立ち回りの中で斬られ役・やられ役が見せる宙返りの技法で、「やられた」という衝撃を大きく誇張して伝える演出です。
トンボが身を翻す姿になぞらえたとされる由来を持ち、花四天や若手役者たちの鍛錬に支えられた、立ち回りに欠かせない基本技術でもあります。
次に歌舞伎の立ち回りを観る機会があれば、主役だけでなく、宙を舞う脇役たちの一瞬の技にもぜひ注目してみてください。
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