ずっと観てみたかった歌舞伎十八番のひとつ『暫(しばらく)』。
しかし、なかなか上演される機会がなく、半ば諦めていました。
そんな中、前回参加した南座の舞台機構体験でいただいたパンフレットに、
市川團十郎が舞台上で『暫』の拵えを披露する
という文字を発見。
これはもう行くしかない、ということで足を運んできました。
「歌舞伎の魅力を多角的に楽しむ」特別な趣向
今回の公演は、通常の通し狂言ではなく、
歌舞伎の魅力をさまざまな角度から体験してほしいという趣向。
事前には詳しい内容が明かされておらず、
「何をやるのか分からない」というワクワク感も含めての観劇でした。
当日の演目・内容は以下の通り。
- 二人藤娘
- 車引
- 市川團十郎さんからのご挨拶
- 観客の中から一人が体験できる『暫』の拵え
- 休憩時間には『暫』の衣装重量体験(約60kg!)
“観る”だけでなく、“触れる・体感する”歌舞伎。
とても新鮮な構成でした。
二人藤娘 ― 舞台いっぱいの華やぎ
まずは二人藤娘。
舞台いっぱいに広がる藤の花、
そして二度、三度と変わる衣裳の数々。
何よりも、
華やかで、美しく、見ているだけで心がほどける舞台でした。
藤娘という演目の持つ、可憐さと艶やかさが、
二人で踊ることでより立体的に感じられます。

車引 ― 見得の迫力と様式美
続いては車引。
化粧声に合わせて決まる見得は、
とにかく迫力満点。
見得、見得、見得。
様式として完全に磨き上げられた美しさ、
まさに歌舞伎の様式美の極みを体感する時間でした。

『暫』の拵え ― 化粧が“芸”になる瞬間
そして、今回最大の目玉。
『暫』の拵え(こしらえ)。
幕がすっと上がると、
暗がりの舞台中央に化粧台を前に座る市川團十郎。
静寂の中、ここから化粧が始まります。
升吉さんのサポートのもと、
- 鬢付油
- 羽二重かむり
- 白粉(なんと4種を使い分け)
- 睫毛拭き、眉毛つぶし
と、一つひとつ工程が丁寧に進んでいきます。
油紅で隈を入れ、ぼかしを加え、
口を割り――
そして最後は
「一番難しい」と語られていた墨書き
緊張感のある沈黙の中、
一気に筆が走り、
これぞ荒事『暫』の顔が完成。
化粧そのものが、すでに一つの芸として成立している瞬間でした。
60kgの重みを体感するということ
休憩時間には、
『暫』の衣装と同じ重さ(約60kg)を背負う体験も。
実際に背負ってみると、
「これを着て、動いて、見得を切る」ということが、
どれほどの身体性を要求されるかがよく分かります。
舞台上での一瞬の立ち姿の裏にある、
圧倒的な鍛錬と覚悟を感じました。

まとめ:歌舞伎は、こんな楽しみ方もある
今回の公演は、
- 名作の名場面を楽しみ
- 役者の言葉を聞き
- 拵えを目の前で見て
- 重みを身体で感じる
という、普段とはまったく違う角度から歌舞伎に触れる体験でした。
「歌舞伎は敷居が高い」と感じている人にこそ、
こうした公演を体験してほしい。
改めて、
歌舞伎は“観る芸術”であると同時に、“体感する芸能”なのだと実感しました。



コメント