「仕抜(しぬき)」は、大勢が出てくる舞台で、演者が順番に前へ出て見せ場をつないでいく構成のことです。
日本舞踊と、歌舞伎の立ち回りの両方で使われます。
読み方は「しぬき」で、「しぬけ」とも呼ばれます。
踊りと殺陣では中身は違いますが、「大勢の中から何人かが前へ出て、ひとくさり見せて、次の人に交代する」という流れは同じです。
この記事では、日本舞踊の仕抜と、歌舞伎の立ち回りの仕抜を、それぞれ紹介します。
混同しやすい「カラミ」との違いや、ぎば・とんぼ・見得との関係、立師やツケの役割、古い用例、観劇での見つけ方まで、初心者向けに解説します。
仕抜(しぬき)とは?日本舞踊と歌舞伎に共通する進行の型
仕抜には、大きく分けて二つの意味があります。
一つ目は、日本舞踊で、大勢の登場人物のうち一人または二人が舞台中央へ出て、ひとくさりずつ踊ることです。
二つ目は、歌舞伎の殺陣で、大勢の捕り手が一人の人物を囲み、その中から一人または何人かが代わる代わるかかって、ひとくさりずつ立ち回りを見せることです。
踊りと殺陣では、やっている動きはまったく別です。
それでも、「大勢の中から一部の演者が前へ出る」「ひとくさり見せる」「次の人に交代する」という流れは同じです。
仕抜は、ひとつの振りや技の名前というより、見せ場を順番につないでいく「進行の型」と考えると分かりやすいです。
「ひとくさり」は、ひとまとまり、一段落にあたる分量のことです。
大勢がいる中で、何人かがそのひとまとまりを受け持ち、終わったら次の人に交代します。
別名は「しぬけ」です。
「仕抜」と書くと読み方に迷いますが、まずは「しぬき」と覚えておけば大丈夫です。
立ち回りの全体像や、型の考え方は、こちらの記事で解説しています。

日本舞踊の仕抜|一人または二人が中央で踊る構成
日本舞踊の仕抜は、舞踊劇で大勢の人物が舞台にいるとき、一人または二人が中央へ出て、ひとくさりずつ踊ることをいいます。
全員が同じ振りを一斉に踊るのではなく、順番に前へ出てくる形です。
舞台にたくさんの人が並んでいるところを想像してみてください。
その中から一人(または二人)が前へ進み出て、ひとくさり踊ります。
踊り終わると、別の一人(または二人)が前へ出て、また踊ります。
これを順番にくり返していくのが、日本舞踊の仕抜です。
日本舞踊の仕抜は、多くの場合、最後に全員で踊る「総踊り」で締めくくられます。
ただし、仕抜と総踊りは別のものです。
仕抜は一人または二人ずつ踊る部分、総踊りは全員で踊る部分です。
流れをまとめると、次のとおりです。
大勢が登場する → 一人または二人が中央で踊る → 次の一人または二人に交代する → 多くは最後に総踊り。
仕抜の中心は、最後の総踊りではなく、その手前で踊りを順番につないでいく部分です。
観るときは、「今、誰が前へ出ているか」「いつ次の人に替わったか」を目で追ってみてください。
振りの細かいところが分からなくても、それだけで仕抜の構成が見えてきます。
日本舞踊の仕抜の例として、『初帆上成駒宝船(ほあげていおうたからぶね)』があります。
2026年10月の平成中村座の舞台では、中村橋之助・福之助・歌之助の三兄弟が順番に前へ出て、一人ずつ踊る場面がありました。
この舞踊は、2016年の歌舞伎座の襲名披露興行で披露され、2026年10月の平成中村座で再演されました。


歌舞伎の舞踊(所作事)そのものについては、こちらで解説しています。

歌舞伎の仕抜|捕り手が代わる代わる見せる立ち回り
歌舞伎のもうひとつの仕抜は、立ち回り(殺陣)の場面で使われます。
大勢の捕り手が一人の人物を取り囲み、その中から一人または何人かが代わる代わるかかっていって、ひとくさりずつ立ち回りを見せます。
捕り手が全員で同じ動きをするのではありません。
一人、あるいは何人かずつ順番にかかっていき、ひとまとまりが終わると、次の捕り手や次の組へ交代します。
立ち回りは、歌舞伎の様式化された殺陣の総称で、ぎば・とんぼ・見得・カラミなどで成り立っています。
仕抜は、その立ち回りが「どんな順番で進むか」に注目した言葉です。
「大勢対一人」という配置だけでは、仕抜とはいえません。
大事なのは、取り囲んだ捕り手が一人または何人かずつ、代わる代わるかかっていくことです。
見分けるときは、人数の多さより、攻め手がどう交代しているかを見るのがコツです。
日本舞踊では、中央へ出た一人または二人が、踊りのひとまとまりを受け持ちます。
立ち回りでは、一人または何人かの捕り手が、動きのひとまとまりを受け持ちます。
中身は違っても、順番に見せ場をつなぐ点は同じです。
仕抜とカラミの違い|「誰が」か「どう進むか」か
仕抜と混同しやすいのが「カラミ」です。
どちらも、大勢が一人の中心人物に立ち向かう立ち回りに関わる言葉ですが、指しているものが違います。
カラミは、主役に立ち向かう捕り手や敵役たち、つまり立ち回りを担う「人(役割)」のことです。
一方、仕抜は、その捕り手たちが一人または何人かずつ代わる代わるかかり、ひとくさりずつ見せるという「進め方」を指します。
ざっくり言うと、「カラミ=担い手」「仕抜=進行の型」です。
カラミについては、立ち回りの解説記事でも紹介しています。
たとえば、舞台に中心の人物が一人と、取り囲む捕り手が何人かいるとします。
立ち向かう捕り手や敵役という「役」に注目すればカラミ、その人たちが順番にかかっていく「進め方」に注目すれば仕抜です。
実際の立ち回りでは両方が重なるので、近い言葉に感じます。
迷ったら、「誰が立ち向かうのか」を言いたいならカラミ、「どんな順番で立ち向かうのか」を言いたいなら仕抜、と覚えてください。
なお、日本舞踊の仕抜には、捕り手や敵役(カラミ)は必ずしも出てきません。
日本舞踊では踊り手が中央へ出る順番、立ち回りでは捕り手がかかる順番に注目した言葉だからです。
仕抜は役柄の名前ではなく、交代しながら見せ場をつなぐ構成を指します。
立ち回りの技法と仕抜|ぎば・とんぼ・見得との関係
歌舞伎の立ち回りは、ぎば・とんぼ・見得・カラミなどの技法や要素で組み立てられています。
仕抜もその立ち回りに関わる言葉ですが、これらと同じ種類の名前ではありません。
仕抜が指すのは、立ち回りを一人または何人かずつ、代わる代わる見せていく構成です。
ぎばやとんぼは、立ち回りを形づくる技法です。
見得も、立ち回りを構成する要素のひとつです。
これに対して仕抜は、ひとつの動作の名前ではなく、複数の演者の動きがどんな順番で出てくるかを表す言葉です。
ですから、仕抜のひとくさりの中に、ぎばやとんぼが入っていることはあります。
ただし、「仕抜=ぎばの別名」「仕抜=とんぼという動作」と考えるのは正しくありません。
技法と、その技法を含む進行の型は、分けて考えてください。
見得との違いも同じです。
見得は立ち回りを構成する要素のひとつで、仕抜は、捕り手が交代しながらひとくさりずつ見せる流れに重点があります。
「何をしているか」だけでなく、「誰から誰へ動きが渡されるか」を見ると、仕抜が分かりやすくなります。
立師は、立ち回りを組み立てる専門家です。
立ち回りには多くの技法や演者が関わるので、その順番や構成を考える役割があります。
仕抜を「捕り手が順番に動く進行」として見ると、立ち回りがひとまとまりずつ組み立てられていることに気づきやすくなります。
立ち回りのタイミングを支えているのが、ツケや囃子です。
ツケ(柝を打つ効果音)や囃子が、動きの切れ目を支えます。
捕り手の交代だけでなく、動きと音がどう重なっているかに耳を向けるのも、ひとつの楽しみ方です。
ここに出てきた技法やツケについては、それぞれ詳しい記事があります。




仕抜・しぬけの用例|江戸時代の資料と歌舞伎作品
立ち回りの仕抜は、江戸時代の歌舞伎用語の解説書『戯場訓蒙図彙(しばいきんもうずい)』に出てきます。
同書は1803年の資料で、仕抜を歌舞伎の立ち回りの言葉として説明するときの出典になっています。
一方、「仕ぬき」と書かれた初出の実例として挙げられているのが、1883年の歌舞伎『金看板侠客本店(きんかんばんたてしのほんだな)』です。
三幕に、「ト座頭仕ぬきよろしくあって、八人の小按摩、皆肌脱ぎ、杖を持ち各々二人づつに別れ」という記述があります。
『金看板侠客本店』は、河竹黙阿弥作の四幕の世話物で、明治16年(1883年)に東京・新富座で初演されました。
侠客の金看板甚五郎が、駆け落ちした堺屋房次郎と芸者お花をかばう義侠を描いた作品です。
仕抜の用例が出てくる三幕の按摩の場面が、このあらすじのどこにあたるかは、今のところ分かっていません。
引用から分かるのは、座頭の仕抜があり、八人の小按摩が杖を持って二人ずつに分かれる、というところまでです。
場面の詳しい事情や筋書きは分からないので、想像で補わないようにしてください。
『戯場訓蒙図彙』は1803年、『金看板侠客本店』は1883年と、80年ほど離れた資料です。
前者は立ち回りの言葉としての意味の出典、後者は「仕ぬき」と書かれた初出の実例、と役割を分けて覚えておくと混乱しません。
表記は、この記事のタイトルでは「仕抜」ですが、引用文では「仕ぬき」と書かれています。
別名は「しぬけ」です。
書き方や呼び方が違っても、日本舞踊では一人または二人、立ち回りでは一人または何人かが順番にひとくさりを受け持つ、という点は同じです。
『金看板侠客本店』のような世話物については、こちらで解説しています。

観劇で仕抜を見つけるポイント|踊りと立ち回りの順番に注目
観劇中に仕抜を見つけたいときは、最初から技法を全部見分けようとしなくて大丈夫です。
まず、大勢いる中で「誰が中央へ出るか」「誰が中心人物にかかっていくか」という順番に注目してみてください。
その交代の流れを追うのが、仕抜を見つける近道です。
日本舞踊なら、一人または二人が中央へ出て、ひとくさり踊っているかを見ます。
次に、別の一人または二人へ順番が移っていれば、仕抜の構成です。
最後に全員の総踊りへ進むかどうかも、見どころのひとつです。
歌舞伎の立ち回りなら、まず、大勢の捕り手が一人を囲んでいるかを見ます。
次に、全員が一斉に動くのではなく、一人または何人かが交代しながらかかっているかを確かめます。
ひとまとまりが終わって次の人や組へ移れば、それが仕抜です。
ただし、「捕り手がいるから仕抜」と決めつけないでください。
捕り手や敵役という「担い手」はカラミで、仕抜は、その人たちが代わる代わる動く「進め方」のことです。
舞台上の人物と、動きの組み立て方を分けて見ると、区別しやすくなります。
慣れてきたら、ぎば・とんぼ・見得などの技法や、ツケや囃子が支えるタイミングにも注目してみましょう。
仕抜という大きな流れを追いながら、その中で技法がどう連なっているかを見る楽しみ方です。
立師が組み立てた立ち回りを、順番のある構成として味わえます。
仕抜を知っていると、大勢が出てくる場面が、ひとくさりごとに区切られた流れとして見えてきます。
日本舞踊なら踊り手がいつ交代して最後に総踊りへ移るか、立ち回りなら捕り手がどう交代するかに、ぜひ注目してみてください。
歌舞伎の見方を広く知りたい方は、こちらもあわせてどうぞ。

仕抜(しぬき)についてのよくある質問(FAQ)
- 仕抜とは簡単にいうと何ですか?
-
仕抜は、大勢の登場人物の中から一部の演者が順番に出て、ひとくさりずつ踊りや立ち回りを見せる構成です。
日本舞踊では一人または二人が中央で踊り、歌舞伎の殺陣では一人または何人かの捕り手が代わる代わるかかります。
この記事では、この共通点を「進行の型」と呼んでいます。 - 仕抜の読み方は何ですか?
-
「しぬき」と読みます。
別名は「しぬけ」です。
1883年の歌舞伎『金看板侠客本店(きんかんばんたてしのほんだな)』の用例では、「仕ぬき」と書かれています。 - 日本舞踊の仕抜と歌舞伎の仕抜は同じですか?
-
演じる内容や一度に動く人数は違いますが、大勢の中から一部の演者が順番にひとくさりを見せる点は同じです。
日本舞踊では一人または二人が中央で踊り、多くは最後に総踊りになります。
歌舞伎の殺陣では、大勢の捕り手が一人を囲み、一人または何人かずつ代わる代わる立ち回ります。 - 仕抜とカラミの違いは何ですか?
-
カラミは、主役に立ち向かう捕り手や敵役たちという「人(役割)」のことです。
仕抜は、その捕り手たちが一人または何人かずつ交代して、ひとくさりずつ立ち回りを見せる「進め方」を指します。
「カラミ=担い手」「仕抜=進行の型」と覚えると分かりやすいです。
立ち回りについては、こちらの記事で詳しく解説しています。 - 仕抜と総踊りは同じものですか?
-
同じではありません。
日本舞踊の仕抜は、一人または二人が中央へ出て、ひとくさりずつ踊る部分です。
多くの場合、そのあとに全員で踊る総踊りが続きます。
歌舞伎が初めての方へ
歌舞伎自体が初めてだと「どう観ればいいの?」と迷うこともあるかもしれません。
歌舞伎には独特の約束ごとや表現がありますが、基本を少し知っておくだけで、面白さがぐっと伝わりやすくなります。
歌舞伎とは?初心者向けにわかりやすく解説

まとめ|仕抜は順番に見せ場をつなぐ舞台の構成
仕抜(しぬき)には、日本舞踊と歌舞伎の立ち回りに関する二つの意味があります。
日本舞踊では、大勢の中から一人または二人が中央へ出て、ひとくさりずつ踊ることで、多くは最後に総踊りになります。
歌舞伎の殺陣では、大勢の捕り手が一人を囲み、一人または何人かが代わる代わるかかって、ひとくさりずつ立ち回りを見せます。
カラミが捕り手や敵役という「担い手」を指すのに対し、仕抜は、その人たちが交代して動く「進め方」に注目した言葉です。
ぎば・とんぼ・見得などの技法とも分けて考えると、それぞれの意味がつかみやすくなります。
観劇のときは、大勢の中から誰が前へ出るのか、どこでひとくさりが終わって誰に交代するのかに、注目してみてください。
仕抜を知ると、日本舞踊や立ち回りを、個々の動きだけでなく、全体の流れとして楽しめるようになります。



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