春霞歌舞伎草紙(お国山三)とは|あらすじ・見どころ・上演史・配役を解説

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『春霞歌舞伎草紙(はるがすみかぶきぞうし)』、通称「お国山三」は、歌舞伎の始祖として知られる出雲阿国と、伊達男の名古屋山三を描く長谷川時雨作の舞踊劇
2026年12月、歌舞伎座「十二月大歌舞伎」の第一部で上演されます。

舞台は、桜の花が咲き誇る京の四条河原。
一座とともに歌舞伎踊りを披露する阿国の前へ、今は亡き山三の幻が現れます。
恋い慕う二人が再びめぐり会い、ともに踊るひとときを、絵巻物を見るような美しさで描く作品です。

2026年公演では、出雲阿国を中村時蔵、名古屋山三を中村歌昇が勤めます。
この記事で紹介するのは、物語の流れと登場人物、舞台ならではの詩情、1915年の初演から続く上演史、歌舞伎座公演の日程と配役。

目次

春霞歌舞伎草紙とは

『春霞歌舞伎草紙』は、明治から昭和期に活動した劇作家・小説家、長谷川時雨による作品です。
出雲阿国と名古屋山三が恋い慕う仲だったという伝承をもとに、桜咲く四条河原で二人が踊る幻想的な世界をつくり上げます。

出雲阿国と名古屋山三は、ともに同じ時代を生きた実在の人物として紹介されています。
ただし、本作は二人の生涯や史実を年代順に再現する歴史劇ではありません。
歌舞伎の始祖とされる阿国と、華やかな伊達男として伝わる山三を結びつけ、恋と追憶を舞踊で表した舞台です。

山三は現実の人物として阿国のもとを訪れるのではなく、すでに亡くなった者の幻、あるいは霊として姿を現します。
春の盛りの桜と死者との再会が重なることで生まれるのは、明るいだけではない、淡くはかない情趣。

1915年の初演時には『お国山三歌舞伎草紙』という題名が用いられ、その後も『春霞歌舞伎草紙』や『お国山三 春霞歌舞伎草紙』として上演されてきました。
「お国山三」という通称は、作品の中心が一貫して阿国と山三の二人にあることをよく表しています。

阿国が歌舞伎の歴史でどのように語られてきたのか知りたい方は、歌舞伎の歴史を紹介する記事もあわせてご覧ください。

春霞歌舞伎草紙のあらすじ

桜が咲き誇る京の四条河原。
出雲阿国は一座の面々を率い、観衆の前で歌舞伎踊りを披露しています。
華やかな衣裳と踊りが春の河原を彩り、歌舞伎の始まりを思わせる世界が舞台上に広がります。

すると、その場へ名古屋山三の姿が現れます。
しかし、山三はすでにこの世を去った人物。
阿国の前に立つのは、生身の山三ではなく、亡き恋人の幻であり霊でもあります。

阿国と山三は恋い慕う仲だったとされる二人。
思いがけない再会を果たした二人は、桜の下でともに踊りに興じます。
物語を多くの事件や台詞によって進めるのではなく、二人の姿、舞踊、春の景色を重ねながら、失われた恋が一時だけよみがえる様子を描いていくのが特徴です。

満開の桜は生命の輝きを感じさせる一方、やがて散る花でもあります。
その中に亡き山三が現れることで、舞台の美しさには夢のような危うさが加わります。
阿国にとっては、恋人との再会がかなった喜びの時間であると同時に、いつまでも続くことのないひととき。

二人が踊る場面では、現実と幻の境がやわらかく溶け合います。
山三がどこから現れ、阿国がその姿をどのように迎え、二人の心が舞踊の中でどう通い合うのか。
細かな筋を追うよりも、舞台に流れる感情を目と耳で受け取ることが、この作品の味わい方に合っています。

2000年の歌舞伎座公演は「絵巻物をみるような美しく夢幻的な舞台」、2014年の歌舞伎座公演は「美しく幻想的な舞踊」と紹介されました。
両公演の紹介に共通するのは、四条河原で阿国が踊り、亡き山三が現れ、二人がともに踊るという内容です。

登場人物

出雲阿国(いずものおくに)

歌舞伎の始祖として知られる実在の女性。
本作では、一座の面々とともに京の四条河原で歌舞伎踊りを披露しています。
舞台の中心に立ち、人々を惹きつける踊り手であると同時に、亡き山三を思う女性として描かれる人物です。

阿国の役には、一座を率いる華やかな存在感と、山三の幻を前にした心の揺れが重なります。
公の場で歌舞伎踊りを見せる力強さから、恋人と二人で踊る親密な情感へ。
その変化によって、阿国の人物像が立体的に浮かび上がります。

2026年12月公演で阿国を勤めるのは中村時蔵です。
出演者の経歴については、中村時蔵のプロフィール記事で紹介しています。

名古屋山三(なごやさんざ)

出雲阿国と同じ時代に実在した、伊達男として知られる人物。
本作では阿国と恋い慕う仲にあったとされますが、物語が始まる時点ですでに亡くなっています。
桜の四条河原へ現れる山三は、阿国の思いが呼び寄せたかのような幻です。

端正な姿や伊達男らしい風情だけでなく、この世ならぬ存在としての気配も山三の大切な要素です。
華やかでありながら、どこか遠く、触れれば消えてしまいそうな存在感。
それが阿国との踊りに切なさを添えます。

名古屋山三は、別の歌舞伎作品にも登場します。
異なる役柄での扱われ方に触れたい方は、以下の記事も参考にしてください。

2026年公演では中村歌昇が山三を勤めます。
中村歌昇については、プロフィール記事で詳しく紹介しています。

阿国の一座

阿国とともに四条河原で歌舞伎踊りを披露する人々。
一座がいることで、阿国が単独の踊り手ではなく、新しい芸能を率いる存在として示されます。
また、現実の河原にある賑わいと、そこへ山三の幻が入り込む不思議な感覚をつなぐ役割も担います。

見どころ

桜咲く四条河原の情景

この演目を象徴するのが、桜の花に包まれた京の四条河原です。
阿国が歌舞伎踊りを披露した場所として語られる四条河原に満開の桜を配し、歌舞伎の原点を思わせる空間と春の季節感を一つの舞台に収めています。

桜、衣裳、舞踊がつくる画面は、過去の公演紹介で絵巻物にたとえられました。
人物の動きだけでなく、舞台全体を一幅の絵として眺めると、場面ごとの色彩や構図、二人の立ち位置にも感じられる豊かな表情。

亡き恋人と踊る夢幻の時間

阿国の前に現れるのは、今は亡き山三の幻です。
現実にはかなわない再会が舞踊の中で実現し、二人は桜の下で踊りに興じます。
この設定によって『春霞歌舞伎草紙』は、単なる春景色の華やかな舞踊ではなく、恋の記憶をたどる作品となっています。

再会の喜びが大きいほど、その時間のはかなさも深まります。
明るい春の風景と、すでに失われた恋人という組み合わせから生まれる陰影こそ、この演目ならではの詩情。
二人が見つめ合う間合いや、動きが寄り添い、離れていく瞬間にも物語が宿ります。

中村時蔵と中村歌昇が描く阿国と山三

2026年公演の阿国は中村時蔵、山三は中村歌昇です。
舞台を率いる阿国と、この世の外から現れる山三では、役に求められる存在感が異なります。
その二人が並び、踊りを交わすことで表現される、かつての恋と現在の隔たり。

中村歌昇は、2014年に歌舞伎座で同演目が上演された際、若衆の一人として出演していました。
それから12年を経た2026年、今度は名古屋山三を勤めます。
同じ作品の舞台に異なる立場で参加してきた歩みも、今回の配役に奥行きを与えています。

「春霞歌舞伎草紙・お国山三」の上演史

本作は、題名や演出の趣向を変えながら上演されてきました。
ここからは、確認できる主な公演を年代順にたどります。

1915年、市村座で初演

長谷川時雨作『お国山三歌舞伎草紙』は、1915年に市村座で初演されました。
その後もたびたび上演され、阿国と山三を描く舞踊劇として受け継がれています。
現在知られる『春霞歌舞伎草紙』へつながる出発点です。

2000年3月、歌舞伎座

2000年3月には、歌舞伎座で『春霞歌舞伎草紙』として上演されました。
出雲阿国は中村時蔵、現在の中村萬壽が勤め、名古屋山三は市川染五郎、現在の松本幸四郎が演じています。

この公演は、四条河原で阿国が歌舞伎踊りを踊ると山三の霊が現れ、二人で踊りに興じる舞踊劇として紹介されました。
「絵巻物をみるような美しく夢幻的な舞台」という説明からも伝わる、物語性と視覚的な美しさの両方を大切にした作品。

2014年6月、歌舞伎座

2014年6月、歌舞伎座「六月大歌舞伎」昼の部一番目では、『お国山三 春霞歌舞伎草紙』の題で上演されました。
主な配役は次の通りです。

役名出演
出雲阿国中村時蔵
名古屋山三尾上菊之助
若衆中村亀寿、中村歌昇、中村萬太郎、中村種之助、中村隼人
女歌舞伎尾上右近、中村米吉、中村廣松

この公演で名古屋山三を勤めたのは尾上菊之助です。
2026年に山三を演じる中村歌昇は、2014年公演では若衆の一人として出演していました。

2014年の公演紹介でも、舞台は桜の花が咲き誇る京の四条河原とされ、歌舞伎踊りを披露する阿国のもとへ亡き山三の幻が現れる内容が示されています。
2000年公演の紹介と一致しており、『春霞歌舞伎草紙』の基本的な場面と物語を確認できる記録です。

2023年1月「卯春歌舞伎草紙」

2023年1月、歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」第一部では『卯春歌舞伎草紙』が上演されました。
出雲阿国は中村七之助、名古屋山三は市川猿之助、佐渡嶋左源太は片岡愛之助、佐渡嶋右源太は中村勘九郎が勤め、女歌舞伎と若衆も出演しています。

この回の紹介では、桜咲く出雲を舞台に、新年を寿ぎ、歌舞伎の栄えを願う趣向が前面に出されました。
四条河原で山三の幻と踊る2000年・2014年の紹介とは異なる内容の力点。
同じ阿国と山三を核にしながら、上演のたびに演出や見せ方が変化してきた可能性がありますが、各公演の脚本や演出がどこまで共通するかは明らかではありません。

作者・長谷川時雨

長谷川時雨は、1879年10月1日生まれ、1941年8月22日没。
本名を長谷川ヤスといい、明治から昭和期に劇作家・小説家として活動しました。

1905年、戯曲『海潮音』が読売新聞の懸賞に入選し、坪内逍遙に師事する契機となりました。
同作は新派でも上演されています。
1908年には『覇王丸』が日本海事協会の募集で当選。
のちに『花王丸』と改題され、六代目尾上菊五郎らによって歌舞伎座で初演されました。

1913年に歌舞伎座で初演された『江島生島』は、その後も繰り返し舞台にかけられています。
続く1915年には、市村座で『お国山三歌舞伎草紙』が初演されました。
『春霞歌舞伎草紙』は、時雨が歌舞伎に題材を提供していた時期に生まれ、初演後も形を変えながら継承された作品です。

1928年には雑誌『女人芸術』を創刊し、女性による表現や言論の場づくりにも取り組みました。
劇作、小説、雑誌編集に活動を広げた時雨の仕事の中で、本作は歌舞伎の始祖とされる女性を主人公に据えた一作として位置づけられます。

1941年1月には「南支方面慰問団」の団長として台湾・広東・海南島を巡り、帰国後に発病。
同年8月22日、白血球顆粒細胞減少症のため61歳で亡くなりました。

歌舞伎座「十二月大歌舞伎」での上演情報

『春霞歌舞伎草紙』は、2026年12月2日(水)から25日(金)まで、歌舞伎座「十二月大歌舞伎」の第一部で上演されます。
第一部は午前11時開演。

役名出演
出雲阿国中村時蔵
名古屋山三中村歌昇

中村時蔵と中村歌昇の経歴は、中村時蔵のプロフィール中村歌昇のプロフィールで紹介しています。
二人の芸歴を知ることで、阿国と山三という配役にも別の角度から親しめるはずです。

第一部には『刺青奇偶』も組まれています。
夫婦の情愛を描く世話物で、『春霞歌舞伎草紙』とは異なる味わいを持つ作品です。

各部の演目や公演全体の情報は、以下の案内記事をご覧ください。

春霞歌舞伎草紙のFAQ

『春霞歌舞伎草紙』はどのような演目ですか?

出雲阿国と名古屋山三を主人公とする、長谷川時雨作の舞踊劇です。
桜咲く京の四条河原で歌舞伎踊りを披露する阿国の前へ、亡き山三の幻が現れ、恋い慕う二人がともに踊ります。

過去にはどんな上演がありましたか?

1915年、市村座で『お国山三歌舞伎草紙』として初演されました。
2000年と2014年には歌舞伎座で『春霞歌舞伎草紙』が上演され、2023年には趣向の異なる『卯春歌舞伎草紙』が登場。
2026年12月には再び歌舞伎座で上演されます。

2026年公演では誰が阿国と山三を演じますか?

出雲阿国を中村時蔵、名古屋山三を中村歌昇が勤めます。
中村歌昇は2014年の同演目にも若衆の一人として出演していました。

上演期間と開演時間はいつですか?

2026年12月2日(水)から25日(金)まで、歌舞伎座「十二月大歌舞伎」の第一部で上演されます。
第一部は午前11時開演。

同じ第一部では、ほかに何が上演されますか?

第一部には『刺青奇偶』も組まれています。
夢幻的な舞踊と人情味のある世話物を、同じ部で味わえる番組です。

歌舞伎が初めての方へ

歌舞伎自体が初めてだと「どう観ればいいの?」と迷うこともあるかもしれません。
歌舞伎には独特の約束ごとや表現がありますが、基本を少し知っておくだけで、面白さがぐっと伝わりやすくなります。
歌舞伎とは?初心者向けにわかりやすく解説

まとめ

『春霞歌舞伎草紙』は、桜咲く京の四条河原を舞台に、出雲阿国と亡き名古屋山三の再会を描く舞踊劇。
阿国が一座と歌舞伎踊りを披露する中へ山三の幻が現れ、恋い慕う二人がともに踊る場面には、春の華やぎと別れの気配が同居します。

1915年の市村座初演以来、題名や趣向を変えながら上演されてきました。
2026年12月の歌舞伎座公演では、中村時蔵の阿国と中村歌昇の山三が描く、絵巻物のような夢幻の世界。

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