中村勘九郎・中村七之助を中心とする「歌舞伎特別公演」は、中村屋一門が全国各地を訪れる巡業公演です。
2005年に始まり、春の「春暁」「陽春」、初夏の「新緑」、秋の「錦秋」と季節に応じて名前を変えながら、毎年のように開催されてきました。
公演が生まれるきっかけとなったのは、地方に住む若いファンから届いた一通の手紙でした。
「地方にいると交通費や宿泊費がかかって、なかなか歌舞伎を見に行くことが出来ない」。
その声を受け、勘九郎・七之助兄弟が自ら全国へ足を運ぶ形で始まったのが、このシリーズです。
この記事では、「春暁と陽春は何が違うの?」「平成中村座とは別の公演?」といった疑問に答えながら、シリーズの成り立ちや歴史を紹介します。
なお、「全国巡業歌舞伎特別公演」という表現は、本ブログがシリーズ全体をわかりやすく示すために用いる便宜上の呼び方です。
統一された正式名称ではなく、公式サイトの表題には「中村勘九郎 中村七之助 歌舞伎特別公演」と記されています。
「中村勘九郎・七之助 全国巡業歌舞伎特別公演」とは?
「中村勘九郎・七之助 全国巡業歌舞伎特別公演」は、六代目中村勘九郎と二代目中村七之助を中心に、中村屋一門が全国を巡る公演シリーズです。
中村勘九郎は、十八世中村勘三郎の長男として1981年に生まれました。
弟の中村七之助は1983年生まれの次男です。
兄弟は父とともに「親子会」として全国各地を巡った経験を持っています。
このシリーズは2005年に始まり、以後、毎年のように続けられてきました。
歌舞伎座のある東京をはじめ、歌舞伎を定期的に上演する劇場は全国でも限られています。
地域によっては、観劇のために交通費や宿泊費がかかります。
そうした地域へ出演者たちが足を運び、歌舞伎を届けることが、この巡業の大きな目的です。
公演では毎年さまざまな演目を取り上げ、歌舞伎を初めて観る人にも、日頃から親しんでいる人にも楽しんでもらえるよう、趣向が凝らされています。
演目や配役はシリーズを通じて固定されているわけではなく、その回ごとに異なる点も押さえておきましょう。
きっかけは一通の手紙だった
全国巡業の始まりには、若い歌舞伎ファンから勘九郎・七之助のもとへ届いた一通の手紙がありました。
その手紙に書かれていたのは、「地方にいると交通費や宿泊費がかかって、なかなか歌舞伎を見に行くことができない」という悩みです。
歌舞伎を観たいと思っていても、上演劇場までの距離が大きな壁になることを伝える内容でした。
勘九郎・七之助兄弟には、父である十八世中村勘三郎と「親子会」で全国各地を巡った経験がありました。
そこで、自分たちが全国へ出向き、より多くの人に歌舞伎を見てもらおうと考えます。
その思いから、兄弟二人を中心とする全国巡業の特別公演が始まりました。
観客が歌舞伎の上演される都市へ出かけるだけでなく、歌舞伎の側から観客の住む地域へ向かう――。
この公演の出発点には、地方の観客が届けた率直な声と、それに応えようとした中村屋の行動がありました。
シリーズが2005年から毎年のように続き、2022年には全国47都道府県での開催を達成したことからも、その歩みの広がりがわかります。
季節で呼び名が変わる|春暁・陽春・新緑・錦秋の違い
このシリーズを初めて知った人が迷いやすいのが、「春暁」「陽春」「新緑」「錦秋」という公演名の違いです。
それぞれ別個のシリーズというわけではありません。
いずれも中村勘九郎・中村七之助を中心とする同じ全国巡業公演の、開催季節に応じた呼び名です。
公式サイトに記載された季節ごとの区分は、次のようになっています。
- 春(3〜4月頃):春暁歌舞伎特別公演/陽春歌舞伎特別公演
- 初夏(5月頃):新緑歌舞伎特別公演
- 秋(9〜10月頃):錦秋歌舞伎特別公演
「春暁」と「陽春」は、どちらも春に行われる公演です。
年によっては、春の巡業の前半と後半で名称が分かれることもあります。
一方、「新緑」は初夏、「錦秋」は秋の開催を示す名称です。
そのため、検索すると異なるタイトルの公演が複数見つかりますが、基本的には同じ巡業ブランドの季節違いと考えるとわかりやすいでしょう。
ただし、名称が同じだからといって、毎年同じ内容が上演されるわけではありません。
演目や配役は公演ごとに異なります。
観劇を検討するときは、「春暁」「陽春」などの名称だけではなく、開催年も含めて確認することが大切です。
2027年春に行われる「春暁歌舞伎特別公演2027」「陽春歌舞伎特別公演2027」の演目や配役、開催地などは、個別記事の「春暁陽春歌舞伎特別公演とは」で紹介しています。

2022年、全国47都道府県での開催を達成
2005年に始まった巡業は、2022年に全国47都道府県での開催を達成しました。
これは、シリーズが積み重ねてきた全国巡業の歩みを示す節目の記録です。
地方に住む若いファンの声から始まった公演が、全国すべての都道府県へ届いたことになります。
もっとも、2005年から2023年までの各回について、具体的にどの地域を訪れ、どの演目を上演したのかを、この記事で年ごとに並べることはできません。
公式サイトのアーカイブには、その期間の開催地や演目を網羅した一覧がなく、本記事の執筆時点で詳細を確認できないためです。
確実にいえるのは、2005年に始まり、毎年のように開催を重ねたこと、そして2022年に47都道府県での開催を達成したことです。
一通の手紙をきっかけに始まった取り組みが、一度限りの企画ではなく、長年続く公演シリーズへ成長した点に大きな意味があります。
季節名や各回の内容は変わっても、「自分たちが全国へ足を運び、多くの人に歌舞伎を見てもらう」という出発点は、シリーズを理解するうえで欠かせません。
直近の開催実績【2024年〜2027年】
公式サイトの「過去の公演」アーカイブなどで確認できる、2024年以降の開催実績・公演情報は次のとおりです。
| 公演名 | 開催期間 | 会場数 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 春暁歌舞伎特別公演2024 | 4月4日〜4月24日 | 全国15カ所 | 十八世中村勘三郎 十三回忌追善 |
| 陽春歌舞伎特別公演2024 | 3月26日〜4月1日 | 全国6カ所 | 十八世中村勘三郎 十三回忌追善/中村勘太郎・中村長三郎も出演 |
| 錦秋歌舞伎特別公演2024 | 10月2日〜10月20日 | 全国11カ所 | 十八世中村勘三郎 十三回忌追善 |
| 新緑歌舞伎特別公演2025 | 5月3日〜5月25日 | 全国16カ所 | |
| 錦秋歌舞伎特別公演2025 | 10月9日〜10月22日 | 全国6カ所 | |
| 春暁歌舞伎特別公演2026 | 3月7日〜3月25日 | (会場数記載なし) | |
| 春暁歌舞伎特別公演2027/陽春歌舞伎特別公演2027 | 2027年3月5日〜4月4日 | 春暁13カ所+陽春7カ所(全20カ所) | 既存記事あり |
2024年の春暁・陽春・錦秋は、いずれも「十八世中村勘三郎 十三回忌追善」と銘打たれました。
十八世勘三郎は2012年12月に亡くなっており、2024年が十三回忌にあたります。
また、2024年春には「陽春」と「春暁」が続けて行われました。
陽春公演には、中村勘太郎と中村長三郎も出演しています。
2025年には5月の新緑公演と10月の錦秋公演、2026年には3月の春暁公演が行われました。
さらに2027年春は、3月5日から4月4日まで、春暁13カ所と陽春7カ所の全20カ所を巡る公演です。
このように、春に一つの名称だけが使われるとは限りません。
直近の開催例を見ても、季節と巡業日程に応じて公演名が使い分けられていることがわかります。
平成中村座との違い
「中村屋の公演」と聞くと、平成中村座を思い浮かべる人もいるでしょう。
しかし、平成中村座と、中村勘九郎・中村七之助を中心とする全国巡業の歌舞伎特別公演は別の企画です。
平成中村座は、十八世中村勘三郎が始めた中村屋の看板企画。
一方、この記事で取り上げている歌舞伎特別公演は、勘九郎・七之助兄弟を中心として各地を巡るシリーズです。
企画の形は異なりますが、どちらにも十八世勘三郎に由来する、歌舞伎をより広く届けようとする精神を見ることができます。
勘九郎・七之助が父とともに「親子会」で各地を巡った経験も、現在の全国巡業が生まれた背景の一つになりました。
両者を同じ公演の別名として扱わないよう注意しましょう。
同じく中村屋ゆかりの企画として、東京・赤坂で行われる「赤坂大歌舞伎」もあります。
こちらも全国巡業とは別に、十八世勘三郎が発案し、現在は勘九郎・七之助が継承している固定会場の公演です。

よくある質問(FAQ)
- 「春暁」「陽春」「新緑」「錦秋」の違いは何ですか?
-
開催される季節に応じた公演名の違いです。
春の3〜4月頃は「春暁」または「陽春」、初夏の5月頃は「新緑」、秋の9〜10月頃は「錦秋」と呼ばれます。
別々の巡業シリーズではなく、いずれも中村勘九郎・中村七之助を中心とする歌舞伎特別公演です。
演目と配役は各回で異なります。 - このシリーズはいつから始まりましたか?
-
2005年から始まりました。
地方に住む若いファンから届いた「交通費や宿泊費がかかり、なかなか歌舞伎を見に行けない」という手紙をきっかけに、勘九郎・七之助兄弟が全国へ足を運ぶ公演が始まったものです。
その後も毎年のように開催され、2022年には全国47都道府県での開催を達成しました。 - 「全国巡業歌舞伎特別公演」が正式名称ですか?
-
シリーズ全体を示す統一された正式名称ではありません。
公式サイトの表題は「中村勘九郎 中村七之助 歌舞伎特別公演」で、実際の公演では開催季節に応じて「春暁歌舞伎特別公演」「陽春歌舞伎特別公演」「新緑歌舞伎特別公演」「錦秋歌舞伎特別公演」という名称が使われています。 - 歌舞伎座で観る公演とは違うのですか?
-
このシリーズは、中村屋一門が全国各地の会場へ足を運ぶ巡業公演です。
歌舞伎を定期的に上演する劇場が限られているなか、各地域へ歌舞伎を届けるという目的を持っています。
開催会場は公演ごとに異なるため、観劇したい年の個別公演情報で確認してください。 - 平成中村座と同じ企画ですか?
-
別の企画です。
平成中村座は十八世中村勘三郎が始めた看板企画で、全国巡業の歌舞伎特別公演は勘九郎・七之助を中心に各地を巡るシリーズとなります。
ただし、どちらも歌舞伎を広く届けようとする十八世勘三郎由来の精神を受け継ぐ企画として捉えることができます。 - 次回の公演情報はどこで確認できますか?
-
公演の最新情報は、公式サイトや公式X「中村屋全国巡業 歌舞伎特別公演」(@kinshutokubetsu)で確認できます。
2027年3月から4月に開催される春暁・陽春公演については、2027年春暁・陽春歌舞伎特別公演の個別記事をご覧ください。
歌舞伎が初めての方へ
歌舞伎自体が初めてだと「どう観ればいいの?」と迷うこともあるかもしれません。
歌舞伎には独特の約束ごとや表現がありますが、基本を少し知っておくだけで、面白さがぐっと伝わりやすくなります。
歌舞伎とは?初心者向けにわかりやすく解説

まとめ
中村勘九郎・中村七之助を中心とする歌舞伎特別公演は、地方に住む若いファンから寄せられた一通の手紙をきっかけに、2005年に始まりました。
春の「春暁」「陽春」、初夏の「新緑」、秋の「錦秋」は、別々のシリーズではありません。
同じ全国巡業公演につけられた季節ごとの名称で、演目や配役はその回ごとに変わります。
巡業は毎年のように続き、2022年には全国47都道府県での開催を達成しました。
その歩みの根底にあるのは、観客が遠方へ出かけるだけでなく、中村屋が自ら各地へ赴き、より多くの人に歌舞伎を届けようという思いです。
各年の演目・配役・開催地などは個別公演の記事で確認し、この記事はシリーズの成り立ちや季節名を知るための案内役としてご活用ください。
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