歌舞伎とは縁のない一般家庭に生まれながら、幼くして歌舞伎の世界に飛び込み、人間国宝の部屋子から「養子」という特別な関係へと歩みを進めてきたのが中村莟玉(なかむら かんぎょく)です。
2025年にはNHK大河ドラマ「べらぼう」にも出演し、歌舞伎ファン以外からの注目も集めるようになりました。
この記事では、中村莟玉の生い立ちから、中村梅玉との特別な関係、名前の変遷、そして舞台以外での活躍まで、まとめて解説します。
一般家庭から歌舞伎の世界に飛び込んだ、その珍しい経歴にも注目しながら紹介していきます。
中村莟玉 プロフィール・経歴
| 本名 | 森正琢磨(もりまさ たくま) |
| 生年月日 | 1996年9月12日 |
| 出身 | 東京都 |
| 屋号 | 高砂屋 |
| 師匠 | 四代目中村梅玉(人間国宝) |
中村莟玉は、歌舞伎とは無縁の一般家庭に生まれました。
両親はともに出版社で編集関係の仕事をしており、母が学生時代からの歌舞伎ファンで、2歳の頃からテレビや劇場で歌舞伎に親しませたことが、すべての始まりだったといいます。
5歳の頃、芸妓の宴席で片岡仁左衛門の与三郎の真似をしていたところ、それを見た日本舞踊の先生に誘われて舞踊の稽古を始めることに。
この縁がきっかけとなり、7歳で中村梅玉と出会うことになりました。
2005年1月、国立劇場『御ひいき勧進帳』の富樫の小姓役で、本名の「森正琢磨」として初舞台を踏んでいます。
一般家庭に生まれた子どもが歌舞伎役者になるケースは、歌舞伎の家系に生まれた場合と比べて非常に珍しく、中村莟玉はその数少ない成功例のひとりといえます。
幼少期から培われた舞踊の素養と、母から受け継いだ歌舞伎への深い愛情が、今の莟玉を形づくる大きな土台になっています。
中村梅玉との関係|部屋子から「養子」へ
2006年4月、中村梅玉の部屋子となり、歌舞伎座『六世中村歌右衛門五年祭 四月大歌舞伎』で「中村梅丸(なかむらうめまる)」を名乗って本格的にデビューしました。
この頃の愛称「まるちゃん」「まるる」は、莟玉に改名した現在でも親しみを込めて使われています。
2019年11月、歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』にて「初代中村莟玉」を襲名。
これと同時に、中村梅玉の「養子」になったことが発表され、大きな話題となりました。
ただし、この「養子」は法律上の縁組ではありません。
2019年9月6日付の東京新聞朝刊では、梅玉自身の言葉として「籍は入れないものの、梅丸を養子として迎える」と報じられており、戸籍上の届け出を伴わない、歌舞伎界に伝わる師弟間の特別な「親子」関係として結ばれたものです。
発表の際、梅玉は「ここからは親子なので。今後私に反抗してくることも増えてくるだろうけど、それも良いと思っています」と語り、以降は莟玉を本名の「琢磨」で呼ぶようになったといいます。
莟玉自身も後年のインタビューで「梅玉とは師匠と弟子の関係でしかなかったのが、親子という関係にもなった」と振り返っており、あくまで師弟関係の延長線上にある、歌舞伎界ならではの特別な結びつきだといえるでしょう。
「莟」の字は、梅玉の養父である六代目中村歌右衛門がかつて主宰した「莟会」に由来し、「玉」は梅玉から取られたものです。
「莟」という漢字は、花のつぼみ、つまり「まだ開いていない花」を意味します。
これから大きく花開いていく将来性を込めた名前であり、師匠である梅玉からの期待の大きさがうかがえる命名だといえるでしょう。
屋号の「高砂屋」も、師匠である中村梅玉と同じものです。
歌舞伎の世界では、部屋子から名題役者へと成長する過程で、師匠と同じ屋号を名乗ることが一般的で、これは芸の系譜を示す重要な意味を持っています。
実の親子でなくとも、屋号を共有することで、芸の上での「家族」であることを内外に示しているのです。
立役・女方どちらも|半々でこなす芸域の広さ
中村莟玉は、女方のイメージが強い一方で、本人は「これまで女方と立役は、大体半々くらいなんですよ」と語っています。
稲田姫(『日本振袖始』)や静御前(『義経千本桜』)などの女方の大役に加え、勝麟太郎(『天保遊俠録』)や土佐修理之助(『傾城反魂香』、若い絵師見習いの役)のような立役も務めるなど、幅広い役柄をこなしてきました。
2018年には新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』で春野サクラ役を演じ、原作ファンからも注目を集めました。
2023年には新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』にも出演するなど、若い世代に向けた新作歌舞伎にも積極的に取り組んでいます。
人気アニメ・ゲーム原作の新作歌舞伎への出演は、これまで歌舞伎になじみのなかった若い世代にファン層を広げるきっかけにもなっています。
2017年に名題適任証を取得し、名題役者としての格を得てからは、より大きな役を任される機会も増えました。
2020年の『御存鈴ヶ森』での白井権八、『人情噺文七元結』でのお久など、梅丸時代には務められなかった役どころを、莟玉襲名後に演じられるようになったことも、本人にとって大きな節目だったと語られています。
『御存鈴ヶ森』の白井権八は、江戸を舞台にした侠客物の名場面で、若く美しい浪人・権八と大親分・幡随院長兵衛との出会いを描く演目です。
莟玉のような若手が権八を任されることは、その美貌と芸の実力の両方が認められた証といえるでしょう。
『御存鈴ヶ森』のあらすじや見どころは、別記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
2022年には『夏祭浪花鑑』で琴浦役、歌舞伎版『風の谷のナウシカ』でケチャ役を演じるなど、古典と新作を織り交ぜながら着実にキャリアを重ねています。
2024年には現代劇『応天の門』で紀長谷雄役を演じるなど、歌舞伎以外の演劇作品にも挑戦の幅を広げています。
ジブリ作品の歌舞伎化という新作にも臆せず取り組む姿勢は、伝統を守りながら新しい表現にも柔軟に対応できる若手役者ならではの魅力です。
舞台以外の活躍|大河ドラマからパンダ好きまで
2025年放送のNHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」では、西村屋万次郎役で出演。
これまでで最も高い注目を集めたテレビ出演のひとつとなりました。
2024年1月には芸能事務所ANDSTIRに所属し、歌舞伎以外のメディア活動にも力を入れています。
NHK-FMラジオでは「KABUKI TUNE」(2022〜2025年)に出演し、2026年1月には上村吉太朗と共演する1時間のスペシャル番組「かぶきがたり」にも出演しました。
芸能事務所への所属は、歌舞伎役者としては珍しい選択です。
本人はこれについて、歌舞伎の枠にとどまらない発信活動を広げていきたいという意向を語っており、伝統芸能の担い手でありながら、新しい表現の場にも積極的に挑戦する姿勢がうかがえます。
知る人ぞ知るエピソードとして、2018年に上野動物園でパンダのシャンシャンを見たことをきっかけに大のパンダ好きとなり、2022年頃からは歌舞伎とは関係のないパンダ関連のメディア出演も増えているといいます。
趣味は読書・映画鑑賞・音楽鑑賞で、好物はそば・カスタードクリーム・ポップコーンとのことです。
歌舞伎役者がパンダ好きが高じてメディアで取り上げられるというのは珍しいケースで、歌舞伎ファン以外の層にも中村莟玉という名前が知られるきっかけのひとつになっています。
伝統芸能の世界にいながらも、こうした親しみやすいエピソードを持っていることが、幅広い世代からの支持につながっているといえるでしょう。
受賞歴
- 2009年10月:国立劇場特別賞(『京乱噂鉤爪』花がたみ役)
- 2010年10月:国立劇場奨励賞(『天保遊俠録』勝麟太郎役)
- 2011年11月:国立劇場奨励賞(『日本振袖始』稲田姫役)
- 2014年7月:国立劇場奨励賞(『傾城反魂香』土佐修理之助役)
- 2017年9月:名題適任証取得
国立劇場の賞を10代のうちから複数回受賞していることからも、若手時代からその実力が高く評価されてきたことがうかがえます。
子役時代の「梅丸」としての実績が、そのまま「莟玉」としての現在の活躍の土台になっているといえるでしょう。
2009年から2014年にかけて4度にわたり国立劇場の賞を受賞しているのは、単発的な評価ではなく、継続的に実力を認められてきたことを示しています。
師匠・梅玉の厳しくも温かい指導のもとで着実に力をつけてきた成果が、こうした受賞歴にしっかりと表れているといえるでしょう。
人柄・素顔
大学では4年制の文学部に進学し、近世日本文学に関心を持っていたといいます。
歌舞伎役者でありながら大学に進学し、学業と舞台の両立を経験してきたことも、莟玉ならではのバックグラウンドです。
近世日本文学への関心は、まさに歌舞伎の台本や古典文学への理解にも直結する分野であり、役者としての表現力にも生かされていると考えられます。
血液型はB型で、生まれつきアトピー体質であることも公表しています。
4歳年上の姉がいますが、姉自身は歌舞伎にはあまり関心がないとのことで、莟玉自身の歌舞伎好きは、母からの影響が色濃く表れた結果だといえそうです。
家族の中でも歌舞伎好きは莟玉と母だけという環境の中で、これほどまでに深く歌舞伎の世界にのめり込んでいったのは興味深いところです。
「まるちゃん」「まるる」という愛称は改名後も変わらず親しまれており、ファンとの距離の近さも人気の理由のひとつです。
一般家庭から歌舞伎の世界に飛び込み、人間国宝の”養子”として歩んできた特別な経歴を持ちながらも、気さくな人柄が多くのファンに愛されています。
5歳の頃に見た片岡仁左衛門の与三郎の真似をしていたというエピソードは、幼くして役者としての観察眼や表現力の芽があったことを物語っています。
母がきっかけをつくり、日本舞踊の先生が縁を結び、そして中村梅玉という師匠に出会う——一つひとつの偶然が重なって今の中村莟玉があるといえるでしょう。
芸能一家に生まれなくても、本人の資質と周囲の支えがあれば歌舞伎役者になれるという、稀有な実例のひとつでもあります。
まとめ|一般家庭から人間国宝の”養子”へ
- 中村莟玉は歌舞伎とは無縁の一般家庭に生まれ、母の影響で幼少期から歌舞伎に親しんだ
- 2006年に中村梅玉の部屋子となり「中村梅丸」としてデビュー
- 2019年に「莟玉」を襲名し、梅玉の”養子”(戸籍上の縁組ではない)となった
- 立役・女方の両方をこなす芸域の広さが特徴
- 2025年NHK大河ドラマ「べらぼう」出演など、舞台以外でも活躍の場を広げている
一般家庭から歌舞伎の世界へ飛び込み、人間国宝の下で研鑽を積んできた中村莟玉。
その特別な経歴と、幅広い役柄をこなす実力の両方から、今後も目が離せない存在です。
NHK大河ドラマ出演をきっかけに知った方も、ぜひ舞台での姿にも注目してみてください。
よくある質問(FAQ)
- 中村莟玉の実の両親は歌舞伎関係者ですか?
-
いいえ、実の両親はともに出版社勤務で、歌舞伎とは無縁の一般家庭の出身です。
母が学生時代からの歌舞伎ファンで、幼少期から劇場に連れて行っていたことがきっかけで、歌舞伎の世界に入りました。 - 中村莟玉は中村梅玉の法律上の養子ですか?
-
いいえ、戸籍上の届け出を伴う法律上の養子縁組ではありません。
2019年の東京新聞の報道によれば「籍は入れないものの」養子として迎えると発表されており、歌舞伎界に伝わる師弟間の特別な「親子」関係です。 - 「中村梅丸」と「中村莟玉」はどう違いますか?
-
同一人物の異なる時期の名前です。
2006年から2019年までは「中村梅丸」、2019年11月の襲名以降は「中村莟玉」を名乗っています。 - 中村莟玉はどんなテレビ出演をしていますか?
-
2025年放送のNHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」に西村屋万次郎役で出演しました。
NHK-FMラジオのパーソナリティーや、産経新聞のコラム連載も務めています。 - 中村莟玉は立役・女方どちらが専門ですか?
-
本人いわく「大体半々くらい」とのことで、どちらか一方に偏らず幅広い役柄をこなしています。
稲田姫のような女方の大役から、勝麟太郎のような立役まで演じ分けています。
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