本日は「お約束事」パート1として、【隈取】についてご紹介します。
隈取というと、白塗りの顔に赤い筋を大胆に描いた、ぐわっと迫力のある紅隈を思い浮かべる方が多いかもしれません。
ですが実は、隈取は演目や役柄によってさまざまな種類があり、その意味や表現も大きく異なります。
そこで今回は、歌舞伎でよく用いられる主な隈取を、図解付きでわかりやすく紹介していきますね。
隈取と化粧
先ほど紹介した紅隈のほかにも、藍隈、茶隈など、隈取には実に多くの種類があります。
演目や場面によって使い分けられ、その数はざっくり100種類以上あるとも言われています。
歌舞伎の世界では、舞台に登場した瞬間に
「この人物はどんな役割なのか」
がひと目でわかるよう、隈取や化粧の約束事が整えられているのです。
隈取の色は役柄によっておおむね決まっており、
- 赤色(紅色)
荒事の基本となる、勇気・正義・強さを持った役に使われます。 - 藍色
スケールの大きな敵役、強大な悪の存在を表します。 - 茶色
鬼や妖怪など、人間ではない不気味な役に用いられます。
また、猿隈や鯰隈は、見ればすぐに分かるような、どこか可笑しみのある隈取となっています。
隈取だけでなく、顔の色にも意味があります。
- 赤っ面:大悪人の家来や手下
- 白い顔:善人や高貴な人物
- 茶色に近い肌色:侍、町人、または悪人
このように、隈取と化粧には多くの情報が詰め込まれており、
100種類以上あるとも言われる中から、舞台で目にすることが多い隈取を、これからイラスト付きでご紹介していきます。

隈取ぁ山ほどありやすから、まずは紅隈に藍隈、赤っ面だけでも覚えときやしょう。
【隈取】
| むきみ隈 | ![]() ![]() | 若々しく、正義感の強い役に多く使われる隈取です。 たとえば、『助六(すけろく)』の主人公・助六や、 『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』の曽我五郎(そがのごろう)などが代表的な役どころです。 顔を白く塗り、目尻と目頭から眉毛まで、紅を縦に力強く入れるのが特徴です。 |
| 一本隈 | ![]() ![]() | 荒事の役に使われる隈取です。 額の両脇から目尻の横、頬にかけて、紅で一本の筋を引きます。 一本隈は、筋隈に比べて、比較的やんちゃで勢いのある役に使われる隈取です。 『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』「賀の祝(がのいわい)」に登場する梅王丸(うめおうまる)、などに用いられています。 |
| 二本隈 | ![]() ![]() | 落ち着きがあり、堂々として力強い大人の役に用いられる紅隈です。 二本の隈を跳ね上げるように描くことから、この名が付けられました。 荒事の中でも、若さや勢いより、貫禄と重みを感じさせる役柄に使われるのが特徴です。 『菅原伝授手習鑑』「車引の場」に登場する松王丸が挙げられます。 |
| 筋隈 | ![]() ![]() | 激しい怒りに満ち、超人的な力を持つ勇者の役に用いられる紅隈です。 いくつもの紅の筋を、跳ね上げるように描くことから、この名が付けられました。 化粧は、あごに三角形の紅を入れ、口角には墨を差します。 荒事の中でも、とりわけ感情の爆発と圧倒的な力強さを表現する隈取です。 『暫(しばらく)』の鎌倉権五郎(かまくらごんごろう)が挙げられます。 |
| 景清隈 | ![]() ![]() | 武勇に優れた勇者でありながら、敵に捕らえられて長く閉じ込められ、青白くやつれてしまった姿を表す隈取です。 とくによく使われる「景清」という役名から、この名が付けられました。 顔の上半分は筋隈と同じ形の紅隈、下半分は藍で描くのが特徴です。 紅と藍を上下で使い分けることから、半隈(はんぐま)とも呼ばれます。 |
| 公家荒 くげあれ 藍隈 | ![]() ![]() | 高い身分を持ち、国を転覆させようとするような大悪人の役に用いられる藍隈です。 冷たく、不気味な印象を与えるのが大きな特徴です。 化粧では、眉(まゆ)を際立たせるほか、額に「位星(くらいぼし)」と呼ばれる丸い形を墨で入れることがあります。 高い身分や権力を象徴すると同時に、その歪んだ野心や不気味さを強調します。 『菅原伝授手習鑑』に登場する藤原時平(ふじわらのしへい)が挙げられます。 |
| 赤っ面 | ![]() ![]() | 大悪人の家来や手下で、考えが浅く、乱暴な性格の役に用いられる隈取です。 地色を白ではなく赤で塗ることから、この名が付けられました。 主人格の大悪人とは異なり、粗暴さや下っ端らしさ、勢いだけの危うさが強調されます。 『暫(しばらく)』に登場する「腹出し」が挙げられます。 |
| 茶隈 | ![]() ![]() | 人間が、この世のものではない存在――妖怪や精霊、悪霊などへ変身する役に用いられる茶隈です。 たとえば土蜘蛛(つちぐも)の場合、やや茶色がかった白地に、付け眉毛を施し、口元を大きく裂けたように描くことで、異形の存在ならではの不気味さを強めます。 人間でありながら、人ならざるものへと変貌していく過程を、隈取と化粧で視覚的に表現しているのが特徴です。 |
| 猿隈 | ![]() ![]() | 豪快な武士でありながら、どこか滑稽でおかしみのある役に用いられる隈取です。 動物や植物をかたどった「戯隈(ざれぐま)」――つまり、ふざけた隈取の一つに分類されます。 化粧の大きな特徴は、「なすび眉」と呼ばれる、八の字のような形の眉です。 勇ましさの中に親しみや可笑しさを感じさせ、観る者の笑いを誘います。 『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』に登場する小林朝比奈(こばやしあさひな)が挙げられます。 |
| 鯰隈 | ![]() ![]() | 悪人でありながら、どこか間抜けで、観客を笑わせる役に用いられる隈取です。 「戯隈(ざれぐま)」の一つに分類されます。 顔の上半分が紅隈、下半分が藍隈という組み合わせになっています。 最大の特徴は、口のまわりに描かれた鯰(なまず)のような髭で、この姿から鯰隈(なまずぐま)と呼ばれるようになりました。 悪役でありながらも、どこか憎めない可笑しさを強調する隈取です。 『暫(しばらく)』に登場する鹿島入道震斉(かしまにゅうどうしんさい)――通称鯰坊主が挙げられます。 |
歌舞伎の「隈取」とは、白く塗った顔に、赤・青・茶などの線を描き、指でぼかして仕上げる独特の化粧法です。
主に荒事と呼ばれる誇張された演技様式に用いられ、正義の役か、悪の役か、人間ではない存在かといった役柄や、強い感情を、舞台に登場した瞬間に伝える役割を担っています。
隈取は、初代市川團十郎が創始したとされ、
江戸時代の薄暗い舞台でも、客席から役者の表情や感情が分かるようにするための工夫でもありました。
単なる装飾ではなく、
芝居を「見て分かる」ための、歌舞伎ならではの視覚言語――
それが隈取なのです。



役の性根や種類によって、色合いや筋の太さも違ってくるんでさぁ。
【化粧】
| 荒事 | ![]() ![]() | 超人的な強さを持つヒーローを演じる豪快な演技様式です。特徴は、白粉の地色に紅や墨で筋肉・血管の膨張を強調する「隈取」という化粧 |
| 和事 | ![]() ![]() | 写実的でやさしいメイクが特徴です。 上方の洗練された文化を背景に、 女性的な柔らかみを持つ優美な男性(色男)を演出するため、 目張りや口元に、あくまでほのかに紅を差します。 |
| 実事 | ![]() ![]() | 写実的で落ち着いた性格の立役(男役)に用いられる化粧で、 荒事の隈取とは対照的に、白粉(おしろい)の地色を活かした 控えめで自然な顔立ちが特徴です。 感情や人物像は誇張された化粧ではなく、役者の表情や芝居によって表現され、実在の人間に近いリアリティが重視されます。 |
| 白塗り | ![]() ![]() | 白塗りは、基本的に白の分量が多いほど、また真っ白に近いほど、 その人物が高貴であり、善の度合いが高いことを表しています。 ただし例外もあり、悪人であっても身分の高い人物の場合は、白塗りで表現されます。 |
| 町人・侍 常識人 | ![]() ![]() | 顔の色が、茶色に近い肌色で表される人物は、 主に侍や町人、または悪人によく使われます。 白塗りの高貴な人物に対し、こうした肌色の化粧は、 より現実的で俗世的な存在であることを表すものです。 身分の低さや荒々しさ、人間臭さを強調する役柄に用いられます。 |
隈取の豆知識
- 「描く」ではなく「取る」
隈取は筆で線を描いたあと、指でぼかして仕上げるため、
「隈を描く」ではなく、「隈を取る」という言葉が使われます。 - 舞台映えの工夫
役者それぞれの顔立ちや表情に合わせて、線の太さや角度を調整し、
客席の後方からでも表情が伝わるよう工夫されています。 - 肌を守る役割
下地に塗る鬢付油(びんつけあぶら)は、
頻繁な化粧やメイク落としから役者の肌を守る役割も果たしています。
歌舞伎の舞台では、隈取を見ただけでキャラクターの属性が理解できるほど、
視覚的な約束事が緻密に作り込まれているのです。
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<お化粧の手順>
<お化粧の手順>
1)おしろいののりをよくするため、そして毛穴から汗が吹き出ないようにするため、まずはじめに鬢付(びんつけ)油を顔全体に塗ります。
2)おしろいを刷毛で塗ります。
3)最後に紅で「隈取」を描きます。
「隈取」を描くときは、筆で縁取って指でぼかす、時間があるときは筆で描く、早変わりのときは指でささっと描くなど、その時々の状況や役者の好みによってそれぞれです。歌舞伎の世界では「隈取」を“描く”、ではなく“取る”と言います。
目の前で隈取や化粧が見られるかも?!
以前南座で見た、『團十郎特別展』では舞台上で実際に暫の鎌倉権五郎の化粧をされてました。
白粉の粉がかなり舞台で待ってたのが印象的でした。


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詳しい成り立ち
隈取の起源と発展
歌舞伎の隈取(くまどり)は、初代市川團十郎が、坂田金時の息子である英雄・坂田金平を主人公とした初舞台で、紅と墨を用いた化粧を施したことが始まりとされています。
芝居小屋のような空間でも、遠くの観客に役者の表情をはっきり伝えるための工夫でもありました。なお、隈取は「描く」ではなく、「取る」と表現されます。
初代團十郎は、人形浄瑠璃の人形のかしらから着想を得て、顔の血管や筋肉を誇張する目的で隈取を創作したといわれています。
この頃の隈取は、現在よりも派手で荒々しい表現だったと考えられています。
隈取の大きな特徴である「ぼかし」の技法は、二代目市川團十郎が牡丹の花を観察して考案したものとされ、以後、隈取は次第に洗練された表現へと発展していきました。
江戸の荒事における隈取の造形には、仁王像などの仏像の誇張された筋肉表現や、能面の洗練された表情が大きな影響を与えています。
一方で、上方の和事を中心とした、情感豊かな芝居の影響により、隈取は荒々しさだけでなく、色気や艶を意識した表現も取り入れるようになります。
その代表が、『助六』の主人公・花川戸助六のむきみ隈です。現在では威勢のよい江戸男として知られていますが、もともとは上方歌舞伎で生まれた役どころでした。
今日伝わる多くの隈取の型は、九代目市川團十郎の門弟である三代目市川新十郎によって整理・伝承されたものです。
隈取は、その色や種類によって役の個性や立場を表し、
舞台に登場した瞬間に、その人物が芝居の中でどんな存在なのかが
ひと目で分かるよう工夫されています。
たとえば、
赤い隈取は、主人公となる正義の味方。
青い隈取は、冷たく不気味な悪人。
赤い顔は、荒々しさを前面に出した敵役。
茶色は、人間ではない妖怪や化け物を表します。
このように、隈取の意味を知ったうえで観ると、
登場人物の立場や関係性が直感的に理解でき、
芝居の内容もぐっと分かりやすく、より深く楽しめるようになりますよ!




















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