歌舞伎演目|積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)あらすじ・見どころ・登場人物を解説

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積恋雪関扉とは?|作品概要

『積恋雪関扉(つもるこい ゆきのせきのと)』は、通称「関の扉(せきのと)」として知られる、常磐津舞踊の大曲です。

もともとは、『重重人重小町桜(じゅうにひとえ こまちざくら)』という顔見世狂言の大詰(最後)に上演される所作事(舞踊)として作られました。
現在では、この「関の扉」の部分だけが独立し、一曲の舞踊劇として上演されています。

当時の顔見世狂言には、いくつかの決まりごとがありました。
たとえば、物語の中心人物は、必ず謀反人であること、大詰の所作事には、樹木や鳥、獣などの精が登場すること
などといった約束があります。

『積恋雪関扉』では、天下を狙う謀反人 大伴黒主 と、小町桜の精・墨染 が登場し、これらの顔見世狂言の定型をしっかり踏まえた構成になっています。

その一方で、
忠臣・良峰少将宗貞小野小町姫の再会という人間ドラマや、
ぶっかえり・引き抜きといった華やかな演出も盛り込まれており、
舞踊でありながら物語を追いやすい「舞踊劇」として完成度の高い作品です。

歴史的な約束事を知ったうえで観ると、「なぜ悪人が出てくるのか」「なぜ桜の精が現れるのか」も腑に落ち、
より深く楽しめる演目です。

積恋雪関扉の主な登場人物

良峰少将宗貞(よしみねのしょうしょう・むねさだ)

仁明天皇に仕えた忠臣です。
政変に巻き込まれて失脚し、現在は逢坂の関のそばでひっそりと暮らしています。
弟・安貞の死を知り、関兵衛の正体に疑いを抱いていきます。

小野小町姫(おののこまちひめ)

宗貞の恋人で、才色兼備の女性です。
宗貞との再会を果たし、関兵衛の怪しい言動にいち早く気づきます。
※多くの上演で、墨染と一人二役で演じられます。

関兵衛(せきべえ)実は大伴黒主(おおとものくろぬし)

逢坂の関を守る関守です。
一見すると素朴な番人ですが、その正体は天下を狙う謀反人・大伴黒主です。
皇位継承に関わる宝物を狙い、関守として機会をうかがっています。

傾城墨染(すみぞめ)実は小町桜の精

都・撞木町から来た傾城として登場します。
しかしその正体は、小町桜の精です。人の姿となって宗貞の弟・安貞と契りを交わしていましたが、安貞の死に黒主が関わっていたことから、仇討ちのために近づきます

良峰安貞(よしみねのやすさだ)

宗貞の弟です。
都の政変に巻き込まれて命を落とします。「二子乗舟」の血文字によって、その死が兄に知らされます。物語後半の争いのきっかけとなる存在です。

積恋雪関扉のあらすじ・ストーリー解説

小町姫の出

雪に閉ざされた逢坂の関
関守・関兵衛が柴を束ねるそばには、満開の小町桜が咲いています、そこへ三井寺参詣の途中の小野小町姫が通りかかります。

関の近くで暮らす良峰少将宗貞が奏でる琴の音に導かれ、小町姫は知らず知らずのうちにその音の方へと心を引き寄せられていきます。

そこへ現れたのが関守・関兵衛
ひとり旅の美女である小町姫不審に思い、行く手をさえぎると、あれこれと難題をふっかけます。

思いがけない逢瀬

やがて宗貞が姿を現すと、目の前の女性が恋人・小町姫であることに気づきます。
二人は思いがけない再会を果たし、雪に閉ざされた関のほとりで、互いの無事を喜びながら深い情を確かめ合います。

しかし、その穏やかなひとときも長くは続きません。
関兵衛の懐から、宮中で失われた宝に関わる証がこぼれ落ちたのです。

それを目にした宗貞と小町姫は、次第に関兵衛の素性に疑念を抱き始めます。

鷹の知らせ

宗貞と小町姫が語らう中、一羽の鷹が血文字の書かれた片袖をくわえて飛来します。
そこには「二子乗舟」の文字が記されていました。

これは、都の政変で命を落とした宗貞の弟・安貞が、自らの死を兄に知らせるための合図でした。
関兵衛が実は謀反人の大伴黒主なのではないかと疑い、宗貞小野篁に関のできごとを知らせ、さらに都の様子をさぐるために、ひそかに小町姫を都へ返します

夜の庭

関兵衛は雪見酒にすっかり酔い、大盃を手に上機嫌です。

ふと盃に映る夜空の星をのぞき込み、占いを始めます。
すると、「今宵、この桜を伐り倒し、護摩木として焚けば大願成就」との吉相が出ます。

実は――この関兵衛こそ、天下取りをたくらむ大伴黒主だったのです。

黒主は桜を伐るため、大まさかりを取り出して研ぎ始めます。
切れ味を試そうと、そばにあった琴を一刀のもとに断ち切ると、中からは「二子乗舟」と書かれた片袖。

不吉な気配が漂う中、桜を伐ろうとする関兵衛
しかし、いざ斧を振り上げた途端、体がしびれ、力が抜け、そのまま気を失ってしまうのでした。

墨染の出

やがて、関兵衛が目を覚ますと、桜の幹の中から美しい女が姿を現します。

都から来た傾城墨染と名乗るその女は、関兵衛に恋慕していると語ります。
しかし実はその正体は、小町桜の精でした。
墨染は、安貞の死に関わった黒主への仇討ちのため、近づいていたのです。

廓の指南

墨染は、関兵衛に「どうか私を色(恋人)にしてください」と告げます
見知らぬ女からの思いがけない告白に、関兵衛は内心あやしみながらも、まずは廓(くるわ)での恋の作法を教えてくれと頼みます。

すると墨染は、まるで本物の傾城のように、華やかな廓での恋の駆け引きを手ほどきします。
関兵衛もすっかりその気になり、恋人同士になったつもりで、痴話げんかの真似事まで始めます。

しかし――

ふとした拍子に、墨染は関兵衛の懐からのぞく「二子乗舟」と血文字で記された片袖を目にします。
その瞬間、彼女の表情が曇ります。

妖しい女の胸の内をいぶかる関兵衛。
一方で、戯れの最中にもかかわらず、墨染の顔つきはしだいに険しさを帯びていくのでした。

みあらわし

追いつめられた関兵衛は、ぶっかえりによって関守の姿を脱ぎ捨て、天下を狙う謀反人・大伴黒主としての本性を現します。

墨染もまた、桜の枝を手に桜の精としての姿をあらわします。

やがて物語は雪の関を舞台に、大きく動き出します。
漆黒の大悪人と花の精がついに対峙し、舞台は激しい立廻りへと発展します。

降りしきる雪の中で繰り広げられる攻防は、様式美と迫力が見事に融合した壮麗なクライマックス。幻想的でありながら力強い、忘れがたい名場面です。

積恋雪関扉のみどころ

ぶっかえりの衝撃

何といっても最大の見せ場は、関兵衛が本性を現す「ぶっかえり」
一瞬で衣装が黒へと変わり、関守が漆黒の大悪人・大伴黒主へと変貌します。
あの“空気が一変する瞬間”は鳥肌もの。歌舞伎ならではの様式美と仕掛けの妙が凝縮された場面です。

小町姫と墨染の二役

多くの場合、小町姫と遊女・墨染(=小町桜の精)は同じ女方が演じます。
清楚な姫と妖艶な遊女、そして神秘的な花の精。
一人の役者がまったく異なる魅力を見せるところが、この演目の大きな楽しみです。女方の力量が存分に味わえます。

舞踊劇ならではのストーリー性

ただの舞踊ではなく、しっかりと物語がある“舞踊劇”
恋、陰謀、正体の暴露、そして花の精との対決まで展開が分かりやすく、舞踊物が少し苦手な人でも入り込みやすい作品です。

ちと長めの舞踊劇でござんすが、常磐津ならではの味がござんしてな。しまいのぶっ返りを拝むために観ると言ってもいいくれぇでさぁ。

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