2025年5月、歌舞伎座で大きな話題を集めたのが、尾上菊五郎(おのえ きくごろう)の八代目襲名です。
長らく「尾上菊之助」として活躍してきた実力派が、歌舞伎界屈指の大名跡を継承し、同時に息子・丑之助が六代目尾上菊之助を襲名するという、親子同時の「W襲名」としても大きな注目を集めました。
この記事では、八代目尾上菊五郎の家系図・経歴から、五代目菊之助時代の当たり役、2025〜2026年にかけて全国で行われている襲名披露公演、そして小説『国宝』のオーディオブック朗読を担当したことまで、まとめて解説します。
尾上菊五郎(八代目) プロフィール・家系図
| 本名 | 寺嶋和康(てらしま かずやす) |
| 生年月日 | 1977年8月1日 |
| 屋号 | 音羽屋(おとわや) |
| 初舞台 | 1984年2月、歌舞伎座『絵本牛若丸』牛若丸役で六代目尾上丑之助を襲名 |
父は、人間国宝でもある名優・七代目尾上菊五郎です。
七代目は2003年に重要無形文化財保持者(人間国宝)として個人認定されており、新作歌舞伎や映像作品にも数多く出演し、伝統と革新のバランスを取りながら活動を続けてきた大役者です。
母は女優の富司純子、姉は女優の寺島しのぶで、芸能一家として知られる音羽屋に生まれ育ちました。
こうした環境の中、幼い頃から歌舞伎の稽古に励み、音羽屋の芸を受け継ぐ役者として育てられてきました。
1984年2月、歌舞伎座『絵本牛若丸』の牛若丸役で六代目尾上丑之助を襲名して初舞台を踏み、1996年5月には五代目尾上菊之助を襲名しました。
以来、女方・立役の両方をこなす実力派として、古典から新作まで幅広い演目で活躍を続けてきました。
そして2025年5月、歌舞伎座での襲名披露公演にて、ついに大名跡「尾上菊五郎」を八代目として襲名しました。
同時に、息子である尾上丑之助が六代目尾上菊之助を襲名しており、親から子へと名跡が受け継がれる「W襲名」として話題を集めました。
妻は、人間国宝の名優・二代目中村吉右衛門の四女にあたる波野瓔子さんで、2013年2月に結婚しています。
これにより、音羽屋(尾上家)と播磨屋(中村吉右衛門家)という、それぞれに人間国宝を輩出してきた名門同士が結びつくことになりました。
長男は2013年11月28日生まれで、2016年5月に本名の寺嶋和史としてお目見得し、2019年5月には歌舞伎座『絵本牛若丸』で七代目尾上丑之助を襲名して初舞台を踏みました。
そして2025年5月、父の八代目菊五郎襲名と同時に、この長男が六代目尾上菊之助を襲名しています。
父から子へと「菊之助」の名が受け継がれ、さらに父自身は「菊五郎」へと進むという、音羽屋にとって記念すべき世代交代となりました。
五代目菊之助時代の当たり役|女方の大役から海外公演まで
五代目尾上菊之助として活躍していた時代から、女方舞踊の大曲を数多く手がけてきたことでも知られています。
代表的な当たり役としては、藤の花の精が娘の姿で恋心を踊る『藤娘』、白拍子花子を鮮やかに踊り分ける『京鹿子娘道成寺』、そして「知らざあ言って聞かせやしょう」の名台詞で知られる『弁天娘女男白浪』の弁天小僧菊之助などが挙げられます。
特に印象深いのが、2005年に初演された演出家・蜷川幸雄によるシェイクスピア劇の翻案『NINAGAWA十二夜』での主演です。
男女二役を早替りで演じ分けるこの舞台は、演出・主演・脚本・美術など多方面で高い評価を受け、歌舞伎と現代演劇を融合させる新しい試みとして大きな反響を呼びました。
『NINAGAWA十二夜』は国内公演だけにとどまらず、2009年には日英交流150周年を記念して、ロンドンのバービカン劇場で海外公演も行われました。
現地の新聞各紙でも劇評が取り上げられるなど、歌舞伎という伝統芸能の魅力を海外に発信する重要な機会となりました。
古典の名品を踊りこなす確かな実力と、蜷川演出のような新しい挑戦を積極的に受け入れる柔軟さを併せ持っていることが、五代目菊之助時代からの大きな魅力のひとつだったといえるでしょう。
こうした幅広い活動実績の積み重ねが、大名跡「尾上菊五郎」を継ぐにふさわしい役者としての評価につながっています。
音羽屋の芸を受け継ぐ実力派として
音羽屋は、河竹黙阿弥の作品をはじめとする世話物や、格調高い舞踊を得意とする一門として知られています。
「新古演劇十種」という家の芸を持ち、『鏡獅子』『藤娘』といった女方舞踊の大曲から、『魚屋宗五郎』のような世話物の名作まで、幅広いレパートリーを受け継いでいます。
八代目菊五郎は、こうした音羽屋の芸を父・七代目菊五郎から直接受け継ぎながら、自身も女方の大役から荒事まで幅広くこなす役者として評価を高めてきました。
襲名披露公演では、まさにこうした音羽屋の真骨頂ともいえる演目が数多く選ばれています。
2025年5月の歌舞伎座での襲名披露を皮切りに、全国各地を巡演する「松竹大歌舞伎」でも襲名披露公演が行われ、『藤娘』や『魚屋宗五郎』といった音羽屋ゆかりの演目が上演されました。
地方公演では地元の観客とじかに触れ合う口上の場面も設けられ、大名跡の襲名を全国のファンとともに祝う機会となりました。
2026年6月の博多座大歌舞伎では、菊五郎・菊之助の親子W襲名披露公演が行われ、大劇場での襲名披露公演がひとつの節目を迎えています。
親子二代での襲名披露が博多座という大劇場で完結することは、音羽屋にとっても大きな意味を持つ出来事といえるでしょう。


小説『国宝』のオーディオブック朗読も担当
映画化され話題となった吉田修一の小説『国宝』では、Audible版のオーディオブックのナレーションを八代目尾上菊五郎(当時は菊之助)が担当したことでも知られています。
歌舞伎役者の内面や芸への向き合い方を描いた物語だけに、実際の歌舞伎役者本人による朗読は臨場感が段違いだと評判になりました。
物語のなかで描かれる女方としての葛藤や、芸の道を歩む厳しさは、幼い頃から音羽屋の芸を受け継いできた本人の実体験と重なる部分も多かったのではないでしょうか。
単なる朗読にとどまらず、歌舞伎役者としての経験を声の演技に落とし込んだナレーションは、原作ファンからも高く評価されています。
映画『国宝』を観て歌舞伎そのものへの関心を深めた方の中には、この朗読をきっかけに音羽屋・八代目菊五郎の存在を知ったという方も少なくないでしょう。
歌舞伎役者としての実演だけでなく、こうした形で作品世界に関わっていることも、八代目菊五郎ならではの活動の幅の広さを物語っています。

人柄・素顔|家族との絆
姉である女優の寺島しのぶは、歌舞伎とは異なる映画・ドラマの世界で活躍していますが、音羽屋の出身であることを公言しており、しばしば弟の舞台を客席から見守っているとも伝えられています。
芸能一家に生まれながらも、それぞれ異なる表現の道で活躍する姉弟の姿は、多くのメディアでも注目されてきました。
妻・波野瓔子さんの実家である播磨屋(中村吉右衛門家)とは、歌舞伎界でも屈指の名門同士の縁組みとして話題になりました。
父・七代目菊五郎から受け継いだ音羽屋の芸に加え、妻の実家である播磨屋の芸にも触れる機会が増えたことは、八代目菊五郎の役者としての幅をさらに広げる要素になっているのではないでしょうか。
幼い頃から厳しい稽古を積み重ね、女方の大役から新しい演出への挑戦、そして家族としての節目まで、着実に歩みを重ねてきた八代目菊五郎。
大名跡を継いだ今、音羽屋という一門全体を背負う責任の重さを、誰よりも実感しているはずです。
まとめ|親子W襲名で音羽屋の未来を担う
- 2025年5月、尾上菊之助が八代目尾上菊五郎を襲名
- 息子・丑之助が同時に六代目尾上菊之助を襲名する「W襲名」
- 父は人間国宝・七代目尾上菊五郎、母は女優・富司純子、姉は女優・寺島しのぶ
- 『藤娘』『京鹿子娘道成寺』『弁天小僧』など女方の大役を数多くこなす
- 蜷川幸雄演出『NINAGAWA十二夜』でロンドン公演も経験
- 2026年6月の博多座大歌舞伎で襲名披露公演がひとつの節目を迎える
- 小説『国宝』Audible版のナレーションも担当し、歌舞伎ファン以外からも注目を集めた
音羽屋の大名跡「尾上菊五郎」を継いだ八代目は、これからの歌舞伎界を牽引する存在として、ますます注目される役者のひとりです。
親子W襲名という節目を経て、これから音羽屋がどのような歩みを見せていくのか、引き続き見守っていきたいところです。
古典の女方舞踊から現代演劇との融合、そして小説の朗読まで、八代目菊五郎の活動の幅広さは、歌舞伎という伝統芸能の可能性そのものを体現しているといえるかもしれません。
これから息子・六代目菊之助とともにどのような舞台を見せてくれるのか、大きな期待が寄せられています。
よくある質問(FAQ)
- 八代目尾上菊五郎はいつ襲名しましたか?
-
2025年5月、歌舞伎座での襲名披露公演で八代目尾上菊五郎を襲名しました。
同時に息子の丑之助が六代目尾上菊之助を襲名しています。 - 尾上菊五郎の父親は誰ですか?
-
父は人間国宝の七代目尾上菊五郎です。
母は女優の富司純子、姉は女優の寺島しのぶです。 - 尾上菊五郎の代表的な当たり役は何ですか?
-
『藤娘』『京鹿子娘道成寺』といった女方舞踊の大曲や、『弁天娘女男白浪』の弁天小僧菊之助などが代表的な当たり役です。
蜷川幸雄演出『NINAGAWA十二夜』での主演でも高い評価を受けました。 - 尾上菊五郎の屋号は何ですか?
-
屋号は音羽屋(おとわや)です。
新古演劇十種など、音羽屋ならではの家の芸を数多く受け継いでいます。 - 映画『国宝』とはどんな関係がありますか?
-
原作小説『国宝』のAudible版オーディオブックで、ナレーション(朗読)を担当しています。
歌舞伎役者本人による朗読として、臨場感の高さが話題になりました。 - 尾上菊五郎の妻は誰ですか?
-
妻は、人間国宝の二代目中村吉右衛門の四女にあたる波野瓔子さんです。
2013年2月に結婚し、同年11月に長男が誕生しています。
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