2024年6月
歌舞伎座で上演された六代目中村時蔵 襲名披露狂言
その舞台で上演された『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 三笠山御殿』を観ました。
妹背山婦女庭訓 三笠山御殿ってどんな歌舞伎?
妹背山婦女庭訓とは
自ら帝位を狙う蘇我入鹿は、帝を御所から追放し、権力をほしいままにしている。
帝の復権を願う藤原鎌足らは、表向きは従いながら、密かに反撃の機会をうかがっていた。
古代王朝を舞台に、数々の伝説を織り込みながら描かれる、江戸時代に生まれた壮大な大古代ロマンである。

傍若無人に振る舞う蘇我入鹿に、一矢報いようとする藤原鎌足らの物語でさぁ。
今回上演されたのは四段目三笠山御殿の姫戻りからのお話
全五段あるうちの更に途中からのお話となります。
少し手前のお話
杉酒屋の娘・お三輪は、最近、隣家に越してきた烏帽子折(えぼしおり)の求女のことが気にっています
ところがある日、求女のもとに身分の高そうな姫が訪ねて来ます、
帰っていく姫を追い、求女が駆け出すと、
その様子を見て、お三輪もまた必死に後を追います。
やがてお三輪は二人に追いつき、姫に詰め寄り、女同士の激しい争いとなる中、求女は糸の端を逃げる姫の袖に結び、
お三輪は求女に糸を結びつけます。
こうして赤と白、二筋の糸を頼りに、それぞれが暗い山道へと進んでいくのでした。
というお話からの続きとなります。
話を分かりやすくするために、人物紹介からさせていただきますね。



お三輪が手にしてるのは苧環(おだまき)、いわゆる糸巻きでござんす。
三笠山御殿の登場人物
杉酒屋娘お三輪:中村時蔵
三輪の里に住む杉酒屋の娘。
烏帽子折の求女に恋心を抱き、七夕に赤糸と白糸の苧環を供えて、添い遂げられるよう祈っている。
求女を奪われまいと必死に後を追い、嫉妬と執念を募らせていく。
烏帽子折求女 実は藤原淡海:中村萬寿
最近三輪の里に越してきた烏帽子折。
お三輪に想われているが、身分の高い姫とも深い関係がある。
実は藤原鎌足の息子で、蘇我入鹿を討とうとしている。
入鹿妹橘姫:中村七之助
身分の高い姫君で、求女の本来の相手。
求女の元を訪れ、求女を伴って去っていく。
お三輪との間で激しい女の争いを生む、蘇我入鹿の妹。
豆腐買おむら:片岡仁左衛門
豆腐を買いに行く女中役ですが、実は劇中口上の大役
漁師鱶七 実は金輪五郎今国:尾上 松緑
表向きは漁師の姿をしている人物。
三笠山御殿で、嫉妬に狂い御殿へ押し入ろうとするお三輪の前に立ちはだかる
実は入鹿を討とうとしている藤原鎌足側の人物
妹背山婦女庭訓 三笠山御殿のあらすじ
糸を頼りに求女は橘姫のもとに現れます。
橘姫は求女が兄を討とうとしていることに気づいていて、斬られる覚悟でしたが、求女は結婚するために宝剣を取ってくるよう迫ります。
お三輪もまた糸を頼りに御殿の近くまで、
見たこともないほど立派な御殿を前に、お三輪は途方に暮れていると
豆腐買おむらに『お清所(トイレ)』の場所を聞かされ、その流れから
劇中口上が始まります。



仁左衛門さんの劇中口上、こいつぁ一度は生で観てぇところでござんすなぁ。
そのあとも応対に出た官女たちは、お三輪を姫の恋敵と見抜き、大勢で取り囲みます。
恋人に会わせると言葉巧みに誘いながら、
御殿のしきたりを押し付け、歌を歌わせるなどして、執拗に弄び、散々にいじめ抜きます。



揃いも揃って、なんとも憎たらしい面構えでさぁ。
だまされたと知り、力なく帰ろうとしたそのとき、御殿の奥から求女と橘姫の祝言を祝う声が聞こえてきます。
理性を失い、嫉妬に燃え上がったお三輪は、髪を振り乱し奥へ駆け込もうとします。
しかし、その前に漁師鱶七が立ちはだかり、刃を突き立てます。
鱶七の正体は、藤原鎌足に仕える金輪五郎。
彼は、蘇我入鹿を討つために必要とされる、「疑着の相」――嫉妬に狂った女の生き血を求めていたのでした。
求女の大望が入鹿討伐にあると知り、そのために自分の命が役立つと聞かされたお三輪は、
いつか来る未来で結ばれることを願いながら、静かに息絶えるのでした。
実は!!
蘇我入鹿を討つためには
- 嫉妬に狂った女の生き血
- 爪黒の鹿の血
このふたつが必要だったのです!
鱶七は問答無用でお三輪を刺しますが、その所作は決して無慈悲なものではありません。
お三輪を殺すことも、蘇我入鹿を討つという大きな目的のため。
そこには、「不憫に思いながらも手を下さねばならない」という、鱶七の複雑な思いが感じられました。
情と非情が静かに交錯するその瞬間に、この場面ならではの深みと余韻があると感じます。
個人的には、そこがとても印象に残りました。
入鹿とは
入鹿の母が白い鹿の生き血を飲んだことで、超人的な力をもって生まれたとされ、
その力を無くすために先ほどの二つのものが必要なわけです。
ちなみに、蘇我入鹿は悪逆非道な人物だったので、歌舞伎的な脚色でこんな扱いですが、実は史実が曲げられていた説もあるとかないとか。



さてさて、真(まこと)のところはどうだったんでござんしょうか。
妹背山婦女庭訓 三笠山御殿を観ての感想
三笠山御殿のみどころ
お三輪のいじめられシーン
いじめの官女と呼ばれる立役から入った怖い官女たちに、お三輪はさんざんな目に遭わされます。
言葉巧みにお三輪を弄ぶ官女たちの冷酷さが、女性同士の残酷な側面を際立たせるのですが
中村獅童をはじめ小川家の立ち役の面々がわざわざ不美人な化粧をして、どんなふうに意地悪をするのか!も見どころの一つ。



むかっ腹がたちやすねぇ
求女と橘姫の祝言のざわめきを耳にし、「あれを聞いては」とお三輪の形相が変わります。
恋する心が強かったからこそ、嫉妬と執念は激しく燃え上がり、
お三輪は理性を失った「疑着の相」へと変貌します、
その落差が、舞台上で鮮烈な印象を場面です。



ヒロインのお三輪ぁ、演じるのも一筋縄じゃいかねぇ、女方なら誰しも憧れる古典歌舞伎の大役でさぁ。
鑑賞レーティング
総合満足度 ★★★★★★★☆☆☆
初心者おすすめ度 ★★★★★★★★☆☆
見どころの密度 ★★★★★★★★☆☆
心に残る度 ★★★★★★☆☆☆☆
再観たい度 ★★★★★★★★☆☆
「※評価は個人の好みが反映されています」
かぶしげオススメの席の選び方
舞台全体を観るなら中央7~9列目あたりいわゆる『とちり席』2階最前列『天覧席』
正面がおすすめ!
花道が使われるのが求女、お三輪の出くらいなのでご贔屓の役者さんでなければ正面から見られる『とちり席』2階最前列『天覧席』がオススメ。




正直レビュー(初心者にはどう?)
結論から言うと、初心者にはやわかりにくいかもって作品です。
理由はシンプルで、登場人物が多く関係性も複雑なうえ、蘇我氏と藤原氏の対立という歴史背景がベースにあるため、予備知識なしだと「なぜこうなるのか」が少し分かりづらい場面が出てきます。
さらに、恋愛だけでなく忠義や家の名誉、親子関係といったテーマが重なり、全体的に感情の密度も高め。
気軽に楽しむというより、じっくり向き合うタイプの作品です。
ただし一方で、有名シーン単体の完成度はかなり高いのも事実。
特に「吉野川」は、日本版ロミオとジュリエット!敵対する家に生まれた恋人同士の切ない関係がストレートに伝わるため、初心者でも感情移入しやすく、「歌舞伎って面白い」と感じられる力があります。
最初から通して理解しようとすると難しいが、名場面から入ると一気に魅力が見えるタイプ。
まずは印象的なシーンだけを見る→気になったら全体を追う、という見方をすると無理なく楽しめます。
名作だけど入口としてはやや重め。ただしハマる人にはかなり深い作品、というのが正直な評価です。


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