鳴神(歌舞伎十八番)のあらすじ・見どころを徹底解説|高僧が豹変する怒りの一幕

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鳴神(歌舞伎十八番)

鳴神(なるかみ)は、歌舞伎十八番のひとつで、高僧が美女の色仕掛けに敗れ、怒りに燃えて豹変するという、色気と迫力を併せ持つ人気演目です。
登場人物はたった二人だけながら、じっくりとした駆け引きと、後半の一変する荒々しさとのギャップが強い印象を残す一幕です。

本記事では、鳴神のあらすじや見どころ、そして毛抜と同じく一度は上演が途絶えながら明治に復活を遂げた歴史まで、初心者にもわかりやすく解説します。

目次

鳴神とは?あらすじをひとことで

鳴神は、雨を降らせる竜神を封印した高僧・鳴神上人が、美女の色仕掛けによって戒律を破らされ、封印を解かれてしまうという物語です。
正式には『雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)』の四幕目(雷神不動北山桜北山岩屋の場)にあたり、現在では毛抜と同じく独立した一幕物として上演されています。

登場人物は鳴神上人と雲の絶間姫のほぼ二人だけですが、静かな駆け引きから一転する激しい怒りまで、ドラマとユーモアを兼ね備えた密度の濃い一幕です。

高僧が女性の誘惑に敗れるという筋立ては、能や説話にも通じる普遍的なモチーフ。それを歌舞伎らしい様式美と荒事の迫力で見せてくれるのが、鳴神という演目の魅力です。

鳴神の由来・成立の歴史

鳴神の原型は貞享元年(1684年)正月、初代市川團十郎が三升屋兵庫の名で台本を書き、江戸中村座の『門松四天王(かどまつしてんのう)』で上演したのが始まりとされています。
現在上演されている形は、寛保2年(1742年)に大坂で上演された『雷神不動北山桜』がもとになっており、毛抜(三幕目)・鳴神(四幕目)・不動(五幕目大切)という三部構成の一角を占めています。

毛抜・鳴神はいずれも七代目市川團十郎によって歌舞伎十八番に選ばれましたが、鳴神は嘉永4年(1851年)に八代目團十郎が演じたのを最後に上演が途絶えてしまいます。九代目團十郎は「自分の柄に合わない」として演じなかったため、長らく上演される機会がありませんでした。

役者本人が「自分には合わない」と判断して演じなかった、というのは興味深いエピソードです。歌舞伎十八番のような家の芸であっても、代々の役者が無条件にすべてを継承してきたわけではなく、その時代・その役者の柄に合うかどうかが常に問われてきたことがうかがえます。

鳴神のあらすじ

世継ぎに恵まれない天皇の依頼を受けた鳴神上人(なるかみしょうにん)は、戒壇(かいだん)の建立を条件に皇子誕生の祈願を行い、見事にこれを成就させます。
ところが天皇はその約束を反故にしてしまいます。怒った上人は呪術を用いて、雨を降らせる竜神を滝壷に封印してしまいました。

それから雨の降らない日が続き、やがて国中が旱魃(かんばつ)に見舞われ、民百姓は困り果ててしまいます。そこで朝廷は、女色によって上人の呪術を破ろうと、内裏一の美女雲の絶間姫(くものたえまひめ)を上人のもとへ送り込みます。

姫の巧みな色仕掛けに、さすがの上人も抗いきれず、思わずその身体に触れてしまい戒律を破ってしまいます。さらに酒を勧められ、酔いつぶれて眠り込んでしまう上人。
その隙を見計らって、姫は滝壷に張られた注連縄(しめなわ)を切り落とします。封印が解けると竜神が飛び出し、空は俄かにかき曇って豪雨となり、姫はその場を逃げ去っていきます。

雨音で目を覚ました上人は、自分が騙されたことに気づき烈火のごとく激怒。髪は逆立ち、まとう衣は炎のように色を変え、、止める弟子たちをなぎ倒し投げ飛ばし、六法を踏みながら、姫の後を追って行きます。

鳴神の登場人物

鳴神上人(なるかみしょうにん)
雨を降らせる竜神を滝壷に封印した高僧。前半は威厳ある人物として描かれますが、後半は一転して怒りに燃える鬼のような姿を見せます。

雲の絶間姫(くものたえまひめ)
内裏一の美女と称される女性。朝廷の命を受け、鳴神上人を色仕掛けで誘惑し、竜神の封印を解く重要な役割を担います。

鳴神の見どころ

前半と後半で豹変する鳴神上人

物語の前半、上人は威厳ある高僧として、姫の誘惑に理性で抗おうとします。
ところが後半、目を覚まして真実を知った瞬間、髪が逆立ち、衣が燃えるような色に変わるという劇的な変化を見せます。
この落差の大きさこそ、鳴神という演目最大の見どころです。

雲の絶間姫による色気の駆け引き

高僧を誘惑するという大役を務める雲の絶間姫の、艶やかで巧みな駆け引きも大きな魅力。
派手な立廻りとは違う、じわじわと相手を追い詰めていく緊張感を味わえます。

怒り狂う上人の荒事の見得

姫に欺かれたと悟った上人が見せる見得は、荒事ならではの迫力にあふれた場面。
ちなみに、この場面で竜が滝を登っていく演出について、「その竜は鳴神上人にしか見えないものだから、悠長に眺めてはいけない」という、雲の絶間姫を演じる役者への言い伝えも残っています。ちょっとした演技の機微にも、長年受け継がれてきた工夫が詰まっているのです。

初めて観る方への鑑賞ポイント

前半は「理性と欲望の駆け引き」に注目

前半、鳴神上人は高僧としての理性を保とうとしながら、少しずつ雲の絶間姫の色仕掛けに揺らいでいきます。
この揺らぎの過程こそがこの演目の核心なので、上人の表情や間の取り方にじっくり注目してみてください。

後半は「豹変」の瞬間を見逃さない

目を覚ました上人が騙されたと悟る瞬間、物腰も表情も一変します。
ここが鳴神という演目最大の転換点。直前までの穏やかさとのギャップが大きいほど、この場面の迫力が際立ちます。

セリフの意味より「緩急」を楽しむ

古語のやり取りを細かく理解できなくても、静→誘惑→油断→激怒という感情の流れは視覚的に追いやすいので、歌舞伎十八番の中でも初心者が入りやすい演目のひとつです。

毛抜の翌年に復活した演目

鳴神は嘉永4年(1851年)を最後に上演が途絶えていましたが、明治43年(1910年)二代目市川左團次が劇作家・岡鬼太郎と提携し、演出を改めて復活上演を果たしました。
これは、左團次が毛抜を復活させたその翌年にあたります。
もともと同じ『雷神不動北山桜』の三幕目・四幕目だった二つの演目が、ほぼ同じ時期に、同じ役者の手で息を吹き返したことになります。

この復活劇があったからこそ、今わたしたちは毛抜と鳴神という歌舞伎十八番の人気演目を劇場で楽しむことができるのです。

『雷神不動北山桜』三部作としてのつながり

『雷神不動北山桜』は、三幕目「毛抜」・四幕目「鳴神」・五幕目大切「不動」という三つの見せ場を持つ、五幕構成の時代物です。
毛抜が「謎解き」、鳴神が「誘惑と怒り」、そして不動が「不動明王による鎮め」というように、それぞれ異なる魅力を持つ場面が連なって一つの大芝居を構成していました。

現在では毛抜と鳴神がそれぞれ独立した一幕物として上演される機会が多く、不動が単独で上演されることは多くありません。
もし同じ公演で毛抜と鳴神が並んで上演される機会があれば、もともと同じ大芝居の一部だったことを思い浮かべながら見比べてみると、また違った味わいが感じられるはずです。

こんな方に鳴神はおすすめ

・じっくりとした駆け引きと激しい荒事、両方を一度に味わいたい方
前半の色っぽい誘惑劇と、後半の荒々しい怒りの場面という、まったく違う魅力が一幕の中に同居しています。

・登場人物が少なく、集中して観劇したい方
主要人物は上人と姫の二人だけ。複雑な人間関係を覚える必要がなく、初めての歌舞伎十八番としても入りやすい演目です。

・毛抜とあわせて「復活の物語」に興味がある方
同じ『雷神不動北山桜』から生まれ、同じ役者の手で蘇った毛抜と鳴神を見比べると、歌舞伎の伝承の奥深さがより味わえます。

・華やかな女方の魅力を楽しみたい方
高僧を誘惑する雲の絶間姫は、色気と知性を兼ね備えた見応えのある女方の大役。艶やかな衣裳や所作にも注目してみてください。

鳴神まとめ

鳴神は、貞享元年(1684年)の初代市川團十郎による原型から、寛保2年(1742年)の『雷神不動北山桜』を経て、七代目團十郎の代に歌舞伎十八番に選ばれた演目です。
嘉永4年(1851年)を最後に一度は途絶えたものの、明治43年(1910年)に二代目市川左團次と岡鬼太郎の手によって復活し、今日の人気演目となりました。

高僧と美女による静かな駆け引きから、一転して荒々しい怒りへと転じる展開は、歌舞伎十八番の中でも屈指のドラマ性を持っています。
毛抜とあわせて観ると、同じ物語から生まれた二つの演目の共通点や違いも楽しめるはずです。

登場人物が少なくストーリーも追いやすいので、歌舞伎十八番デビューの一本としてもおすすめです。
前半のじっくりとした駆け引きと、後半の荒々しい怒り——その両方をぜひ劇場で体感してみてください。

よくある質問(FAQ)

鳴神はどんな話ですか?

雨を降らせる竜神を封印した高僧・鳴神上人が、美女・雲の絶間姫の色仕掛けによって戒律を破らされ、封印を解かれてしまうという物語です。目覚めた上人が激怒し、姫を追いかける場面で幕となります。

鳴神と毛抜はどんな関係がありますか?

どちらも『雷神不動北山桜』という同じ芝居の一部です(毛抜は三幕目、鳴神は四幕目)。また、どちらも一度上演が途絶え、二代目市川左團次によってほぼ同じ時期に復活したという共通の歴史を持っています。

鳴神はなぜ一度上演されなくなったのですか?

嘉永4年(1851年)に八代目市川團十郎が演じたのを最後に上演が途絶えました。九代目團十郎が「自分の柄に合わない」として演じなかったことも、上演が途絶えた一因とされています。

登場人物は何人ですか?

物語の中心となるのは鳴神上人と雲の絶間姫の二人です。主要人物が少ないため、初めて歌舞伎十八番を観る方にも比較的わかりやすい構成になっています。

歌舞伎初心者でも楽しめますか?

はい。登場人物が少なくストーリーもシンプルなうえ、前半の色っぽい駆け引きと後半の激しい怒りという緩急がはっきりしているため、初心者にもおすすめの演目です。

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