押戻とは?歌舞伎十八番に数えられる荒事ヒーローの役どころを解説

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押戻(おしもどし)とは、怨霊や妖怪の前に立ちふさがり、その行く手を阻み、花道から本舞台へと押し戻して怒りを鎮める勇者の役、またはその演出のことです。

江戸歌舞伎の特徴である荒事(あらごと)の代表的な表現であり、豪快で超人的なヒーロー像を象徴する存在です。

歌舞伎の荒事とは?市川團十郎が生んだ豪快な演技様式をわかりやすく解説

目次

押戻とは

押戻は、独特のいでたちをした勇者が登場し、荒れ狂う怨霊・妖怪を力強く押し返す役どころです。

単なる退治ではありません。

花道まで飛び出してきた異形の存在を、本舞台へと“押し戻し”、その怒りを鎮めることが役目なのです。

この「押し戻す」動作から、役名が生まれました。

荒事のヒーローの強さを、これでもかというほど誇示する見せ場でもあります。

役名は演目ごとに異なり、大館左馬五郎(おおだてさまごろう)、竹抜五郎(たけぬきごろう)などの名が使われます。

他にも坂田金時、平井保昌など。

押戻は歌舞伎十八番のひとつ

押戻は、市川宗家に代々伝わる歌舞伎十八番のひとつです。

歌舞伎十八番は、荒事を中心とした家の芸の集大成。
その中に押戻が含まれていることからも、荒事を象徴する重要な演目であることがわかります。

押戻の登場シーン

物語の幕切れ近く――

\しばらぁーーーくーーー!/

という声が花道の揚幕の奥から響きます。

やがて、ど派手な姿の人物が、
どすどすどすどすと花道を進んでくる。

\あーーりゃーーーこりゃーーー!/
\でぇーーーーっけぇーーーー!/

とはやされながら満を持して登場するのが押戻です。

花道で怨霊や妖怪と向き合い、にらみ合い、
ついにはぐいぐいと本舞台へ押し戻す

その圧倒的な存在感が、舞台を一気に支配します。

押戻の装束と象徴

押戻は、荒事特有の装束で登場します。

  • 赤い隈取
  • 荒事の鬘と衣裳
  • 高下駄
  • 蓑と竹笠
  • 背に仁王襷
  • 手に太い青竹

とにかく常軌を逸した迫力です。

隈取

隈取(くまどり)は、役柄の性格や善悪を誇張する歌舞伎独特の化粧法。

  • 赤:勇気・若さ・正義
  • 藍:邪悪・亡霊
  • 茶:土蜘蛛など非情な悪

顔の筋肉や血管を誇張した図案で、荒事の力強さを視覚的に表現します。

仁王襷(におうだすき)

背中に大きな結び目のある鮮やかな羽二重の糸束で編んだ襷
呪力を象徴する装身具とされ、民俗的な神事との関連も指摘されています。

青竹の意味

手に持つ太い青竹は、単なる小道具ではありません。

竹は丈夫でしなり、弾き返す力が強い素材
古くは竹を燃やして大きな音を出すことで魔除けに使われました。

邪気を祓い、荒れた気を鎮める象徴とも考えられています。

押戻が登場する代表演目

押戻は、道成寺物の幕切れに登場することが多いです。

代表的なのは:

  • 鳴神
  • 娘道成寺

終盤で押戻が現れ、荒れ狂う存在を鎮め、舞台を清めるように物語を締めくくります。
押戻がある場合は副題として「押戻まで」と書かれています。
上演される方が少ないので、見つけたらぜひご覧になってください。

押戻の本質 ― 荒事ヒーローの象徴

押戻は、ただの怪力の勇者ではありません。

混沌を鎮め、舞台を清め、秩序を取り戻す存在です。

怨霊を「退治」するのではなく、その怒りを「鎮める」

そこに、荒事の美学があります。

物語の最後に現れ、圧倒的な力で世界を整える――
それが押戻という役なのです。

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