ぢいさんばあさんのあらすじ・結末をわかりやすく解説|37年待ち続けた夫婦の物語

当ページのリンクには広告が含まれています。
ぢいさんばあさんの伊織とるん

「来年の桜が咲く頃に帰る」と約束して去った夫が、戻ってきたのは37年後——。

歌舞伎「ぢいさんばあさん」は、そんな切なくも温かい夫婦の物語です。難しい古典語もなく、ストーリーも明快。はじめて歌舞伎を観る方にもすすめやすい演目ですが、その再会の場面では、ベテランの歌舞伎ファンでも涙をこらえられません。

この記事では、あらすじ・登場人物・みどころを丁寧に解説します。
シネマ歌舞伎で観る前の予習にも、ぜひお役立てください。

今回観たのは「さよなら歌舞伎座」のDVD。
伊織を片岡仁左衛門、るんを坂東玉三郎が演じた公演です。
玉三郎さん演じるるんに甘えて、はしゃいで、よく笑う——仁左衛門さんの伊織があまりにも魅力的で、「この夫婦が引き裂かれるのか」と思うと、別離の場面からすでに胸が痛くなりました。
そして再会の場面では、スマホも手紙も満足に届かない時代に37年間待ち続けたるんの気持ちを想像して、言葉が出なくなりました。

目次

「ぢいさんばあさん」とはどんな演目?

「ぢいさんばあさん」は、文豪・森鷗外の短編小説を原作とする歌舞伎です。

原作小説は1915年(大正4年)に発表されたもので、江戸時代の武家夫婦を描いた静かな作品です。
これを「昭和の黙阿弥」とも称される劇作家・宇野信夫が歌舞伎として作・演出し、1951年(昭和26年)に初演しました。

宇野信夫は原作に敬意を表しながら、舞台ならではの情感を加えるために夫婦が再会する場面を新たに書き加えました。
この「再会」の場面こそが、観客の涙を誘う本作の核心です。
原作には再会場面はなく、歌舞伎版だけが持つ最大の見せ場といえます。

初演以来、繰り返し上演される人気演目となり、2025年1月にはシネマ歌舞伎として全国の映画館でも公開されました。

あらすじ

序幕|おしどり夫婦と突然の別れ

江戸に住む美濃部伊織(みのべ いおり)と妻るんは、江戸でも評判のおしどり夫婦。
子どもも生まれ、穏やかな日々を送っていました。

ところがある日、ひとつの知らせが届きます。
るんの弟・宮重久右衛門(みやしげ きゅうえもん)が喧嘩で負傷し、京都へ赴く勤めに出られなくなってしまったのです。
武家の義理として、伊織が代わりに1年間、単身で京都へ赴くことになります。

「来年、桜が咲く頃に帰ってくる」——そう約束を交わして、伊織とるんは別れます。

二幕目|京都での事件

京都での勤めに就いた伊織でしたが、そこで思わぬ事件が起きてしまいます。
同輩の下嶋甚右衛門(しもじま じんえもん)とのいざこざで、刀を抜いてしまったのです。

「ふとした弾みから」とはいえ、同輩を斬った咎は重く、伊織は越前にお預けの身となってしまいます。
江戸への帰参が叶わなくなり、るんとの約束を果たせないまま、月日だけが流れていきます。

大詰|37年後の再会

それから37年——。

ついに罪が許された伊織は、老いた体でるんのもとへと帰ってきます。
待ち続けたるんも、もはや白髪の老女。
二人はすっかり老いてしまいました。

長い歳月は、お互いの面影をも変えてしまいました。
るんは、目の前の老人が本当に夫・伊織なのか、すぐには信じられません。

そのとき、るんがふと気づきます。
伊織が、昔から無意識にやっていた癖——鼻をそっと触る仕草を。

その一瞬に、37年の時が溶けていきます。
「あなたはやっぱり伊織様……」

庭には、若い頃に二人で植えた桜の苗木が、いまや大きな木になって花を咲かせています。
別れた春から何十回も繰り返してきた桜が、ようやく二人一緒に眺める桜になりました。

現代でさえ長期間の別れはつらいものですが、スマホも電話もない江戸時代、37年とはどれほど長い歳月だったのか——DVDを観ながら、何度もそんな想いが頭をよぎりました。

登場人物

人物名読み
美濃部伊織みのべ いおり主人公。やさしいおしどり夫婦の夫。まじめな武士
るん伊織の妻。37年間ひとりで待ち続ける
宮重久右衛門みやしげ きゅうえもんるんの弟。代わりに京へ赴くことになった発端の人物
下嶋甚右衛門しもじま じんえもん伊織の同輩。事件の相手
宮重久弥みやしげ ひさや久右衛門の息子。伊織が不在の間、るんを支えた甥
久弥の妻・きく久弥の妻。老いたるんの身の回りを世話する

みどころ3選

1.「来年の桜」の約束(序幕)

別れの場面での「来年の桜が咲く頃に」という約束が、この演目全体を貫く通奏低音です。
観客はその約束を知っているからこそ、37年後の再会まで、ずっとるんと一緒に待ち続けることになります。

2.「鼻を触る癖」での気づき(大詰・最大の見せ場)

老いて面影が変わっても、無意識の癖は変わらない——このシンプルな発見が、37年分の感情を一気に解き放ちます。
言葉ではなく「仕草」で夫婦の絆を表現する、歌舞伎ならではの演出です。

3.桜の大木(大詰)

祝言に植えた桜が、37年後には大木になって花を咲かせている。
この視覚的な「時の流れ」の表現は、台詞よりも雄弁に夫婦の長い別離を物語ります。

原作(森鷗外の小説)との違い

歌舞伎版と原作小説の最大の違いは、再会場面の有無です。

鷗外の原作は、伊織が許されて江戸へ帰ってくることで終わります。
再会場面も、「鼻を触る癖」も、桜の大木も、すべて宇野信夫が歌舞伎化にあたって加えたものです。

鷗外の原作は青空文庫で無料公開されていますので、歌舞伎版と読み比べてみると、宇野信夫がどれだけ丁寧に「舞台ならではの情感」を加えたかがよくわかります。

代表的な配役

「さよなら歌舞伎座」公演(2010年)の配役は以下のとおりです。
このDVDがシネマ歌舞伎の収録元でもあります。

役名俳優
美濃部伊織片岡仁左衛門
伊織妻 るん坂東玉三郎
宮重久弥中村芝翫
久弥妻 きく片岡孝太郎
石井民之進片岡市蔵
戸谷主税大谷桂三
山田恵助市川齊入
柳原小兵衛坂東秀調
弟 宮重久右衛門中村鴈治郎
下嶋甚右衛門中村勘三郎

玉三郎さん演じるるんに甘えて、はしゃいで、よく笑う仁左衛門さんの伊織。
「この夫婦が別れるのか」と分かっていても、序幕の幸せな場面が愛おしくて仕方ありません。
別離の引き金を引く下嶋甚右衛門を十八世勘三郎が演じているのも、いま思えばなんとも豪華な座組です。

なぜ伊織は37年も帰れなかったのか?

作中では「同輩を斬ってしまったため」と描かれていますが、
当時の武士社会では、同輩への刃傷は非常に重い罪でした。

切腹やお預け処分となり、すぐに帰参できるものではありません。

つまり伊織は「帰れなかった」のではなく、
武士としての責任を背負い続けた結果、
37年という歳月が流れてしまったのです。

果たして結末はハッピーエンドなのか?

37年という歳月を経て再会する二人。
一見するとハッピーエンドですが、若い頃の時間は戻りません。

だからこそこの作品は、
「失われた時間の悲しさ」と
「それでも続く夫婦の絆」
その両方を描いた物語といえます。

まとめ

「ぢいさんばあさん」は、難しさゼロで楽しめる、歌舞伎入門にぴったりの演目です。

  • 江戸の武家夫婦が、義弟の身代わりで離れ離れになる
  • 同輩を斬ってしまい、37年もお預けの身に
  • 老いた再会の場面で、妻は夫の「鼻を触る癖」に気づき涙

涙腺崩壊必至の名作ですが、笑いのある前半もあって、はじめての歌舞伎観劇にもおすすめです。シネマ歌舞伎でも手軽に楽しめますので、ぜひ一度ご覧ください。

歌舞伎なのになぜ心中しないの?

森鴎外による新作歌舞伎なので、いわゆる世話物のような心中ものではなく、「生きて再会する」ことに価値を置いた作品だからです。

実話なの?

実話ではなく、森鷗外による創作です。

なぜ桜なの?

時の流れと約束の象徴として使われています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次