源氏物語 六条御息所の巻 あらすじ・見どころ完全解説|坂東玉三郎の生霊が凄艶な新作歌舞伎【2024年歌舞伎座】

当ページのリンクには広告が含まれています。

紫式部の『源氏物語』を歌舞伎で――そう聞くと「本当に歌舞伎になるの?」と意外に思う方も多いかもしれません。

2024年10月、歌舞伎座で初演された『源氏物語 六条御息所の巻』は、坂東玉三郎と市川染五郎という組み合わせで大きな話題を呼び、連日チケットが完売する人気公演となりました。
その後シネマ歌舞伎として映画館で公開され、2026年にはCS放送「衛星劇場」でテレビ初放送もされています。

この記事では、あらすじ・登場人物・見どころから、原作『源氏物語』や能『葵上(あおいのうえ)』との違いまで、初心者にもわかりやすく解説します。

目次

『源氏物語 六条御息所の巻』とは?作品概要

『源氏物語 六条御息所の巻』は、紫式部の古典『源氏物語』のうち、光源氏・六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)・葵の上(あおいのうえ)の三者が織りなす恋と嫉妬を描いた「葵」の巻を題材に、歌舞伎として新たに脚色した作品です。

脚本は竹柴潤一(たけしば じゅんいち)、演出は今井豊茂(いまい とよしげ)が手がけ、坂東玉三郎が監修を務めました。
2024年10月2日〜26日、歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」の夜の部で初演され、同じ夜の部でもう一演目『婦系図(おんなけいず)』も上演されるという豪華な組み合わせでした。

坂東玉三郎が六条御息所、市川染五郎が光源氏を演じ、二人の美しくも痛ましい関係が丁寧に描かれたことで大きな反響を呼び、公演は連日完売となりました。

紫式部の『源氏物語』は全五十四帖に及ぶ長大な物語ですが、本作はその中から光源氏・六条御息所・葵の上の三者の恋愛模様に焦点を絞り、新たに一篇のドラマとして描き出しています。
長編の古典文学を歌舞伎として舞台化する試み自体が珍しく、公演前から注目を集めていました。

あらすじ|嫉妬に狂う六条御息所と光源氏・葵の上の三角関係

平安の世、稀代の貴公子・光源氏は、年上の恋人である六条御息所のもとを訪れます。
久しぶりに顔を合わせた二人は、連れ舞を舞うなど穏やかで楽しいひとときを過ごします。

しかし、その心の奥では、六条御息所は光源氏の正妻・葵の上への複雑な思いを募らせていました。
葵の上は光源氏の子を身ごもっており、六条御息所は二人の仲を嫉み、光源氏を詰り始めます。

光源氏が屋敷を去った後、ひとり残された六条御息所は深い悲しみに沈み、その悲しみはやがて抑えきれない嫉妬へと変わっていきます。
気品と誇りを持つ女性が、自らの感情に飲み込まれていく様子が、静かに、しかし激しく描かれていきます。

物語の背景には、六条御息所の嫉妬心が生霊(いきりょう)となって葵の上を苦しめるという、原作『源氏物語』でも特に有名な展開があります。
本作では、その生霊になっていく過程そのものが、大きな見どころとして丁寧に描かれています。

誇り高く、教養にも恵まれた六条御息所は、本来であれば感情をあらわにするような女性ではありません。
だからこそ、心の奥底にたまっていく嫉妬や悲しみが、抑えきれずに溢れ出していく過程には、単なる「怖い女性」では片づけられない哀しさが漂います。
光源氏への愛情が深いほど、その裏返しとしての苦しみも大きくなっていく――そんな人間の心の機微が、丁寧な所作と表情の変化を通して描かれていきます。

登場人物・配役一覧

役名演者役どころ
六条御息所坂東玉三郎光源氏の年上の恋人。
気品と嫉妬心を併せ持つ女性
光源氏市川染五郎稀代の貴公子。
六条御息所と葵の上、二人の女性の間で揺れる
葵の上中村時蔵光源氏の正妻。
光源氏の子を身ごもっている
女房中将上村吉弥六条御息所に仕える女房
左大臣坂東彌十郎葵の上の父
北の方中村萬壽葵の上の母

女方の最高峰として知られる坂東玉三郎が六条御息所を演じることで、気品と狂気が同居する難役に説得力が生まれています。

2024年10月の「錦秋十月大歌舞伎」夜の部では、この『源氏物語 六条御息所の巻』に加えて、泉鏡花原作の『婦系図(おんなけいず)』も上演されました。
同じ夜の部の中で、坂東玉三郎はそれぞれ異なる女性像を演じ分けており、一晩でその芸の幅広さを堪能できる贅沢な公演でもありました。

坂東玉三郎と市川染五郎——世代を超えた共演

本作のもうひとつの見どころは、女方の最高峰である坂東玉三郎と、当時19歳だった市川染五郎の共演そのものにあります。

玉三郎は稽古にあたり、染五郎に対して「幕が開いたら先輩とか後輩とか年齢のことは考えないでね」と伝えたといいます。
自らの解釈を一方的に押しつけるのではなく、「納得できないことがあったら言って」と染五郎自身の考えを求め続けました。

当初は口数が少なかったという染五郎も、稽古を重ねるうちに次第に自分の意見をはっきりと口にするようになったと玉三郎は振り返っています。
年齢も芸歴も大きく異なる二人が、対等な立場で光源氏と六条御息所の関係を作り上げていった過程も、この作品の魅力のひとつといえるでしょう。

見どころ①:坂東玉三郎が体現する「怨霊になったことに気づかない」凄み

本作最大の見どころは、六条御息所を演じる坂東玉三郎の演技です。
玉三郎自身、六条御息所というキャラクターについて「本人は怨霊になっていることを知らず」に苦しんでいる、という点への共感を語っています。

嫉妬に狂い、生霊となって葵の上を苦しめてしまう六条御息所は、決して悪意を持って呪おうとしているわけではありません。
むしろ、自分でも制御できない感情に翻弄される哀れさこそが、この役の核心です。

観劇レポートでは、六条御息所が意識を失う場面について「玉三郎の肉体が消えて十二単だけが地に落ちたようだった」と評されるなど、物語の終盤で御息所が「人ならざる者」へと変わっていく様子に、女方としての凄みが際立つとされています。

見どころ②:几帳を使った演出と絵巻物のような舞台美術

舞台美術にも工夫が凝らされています。
平安貴族の邸宅に置かれる調度品「几帳(きちょう)」をリバーシブルに使い、表と裏で異なる世界観を切り替える演出が用いられました。

これにより、六条御息所の心の中の「表の顔」と「裏に隠れた嫉妬」が、舞台装置そのものによって視覚的に表現されています。
宣伝ビジュアルでも、六条御息所と光源氏が互いを見つめ寄り添う姿が、まるで一枚の絵巻物のような世界観で描かれており、平安王朝の雅やかさと、その裏にある切なさが同居した作品であることがうかがえます。

歌舞伎にはもともと、王朝時代を舞台にした「王朝物」と呼ばれる作品群があり、雅やかな装束や様式的な所作で平安貴族の世界を描いてきました。
本作もその流れを汲みながら、几帳という具体的な小道具を使って人物の内面まで表現しようとする、新作ならではの工夫が凝らされています。

原作『源氏物語』「葵」の巻・能『葵上』との違い

六条御息所の生霊が葵の上を苦しめるエピソードは、『源氏物語』の中でも屈指の名場面として知られ、能の演目『葵上(あおいのうえ)』の題材にもなっています。

能『葵上』では、葵の上は一枚の小袖(こそで)を舞台に置くことで表現され、六条御息所の生霊だけが般若の面をつけて姿を現すという、抽象度の高い演出が特徴です。

一方、今回の歌舞伎版『源氏物語 六条御息所の巻』では、光源氏・六条御息所・葵の上の三者がそれぞれ実際の役者によって演じられ、三角関係そのものの人間ドラマとして物語が組み立てられている点が大きな違いです。
生霊となる「結果」だけでなく、そこに至るまでの心の揺れを丁寧に見せる構成になっています。

なお、生霊(いきりょう)は本人が生きたまま怨念だけが体を離れて相手に取り憑く現象で、当人が亡くなったあとに現れる幽霊とは区別されます。
怪談 牡丹燈籠のような幽霊物とはまた違った、生きている人間の情念の恐ろしさが、この作品のテーマになっています。

「女性の嫉妬や執心が、本人の意思を超えて恐ろしい姿へと変わっていく」というテーマは、歌舞伎ではほかにも繰り返し描かれてきました。
たとえば京鹿子娘道成寺では、清姫の恋慕が蛇の化身へと転じていく様子が舞踊として描かれます。
六条御息所の生霊も、恋する女性の情念が理性を超えていくという意味で、こうした系譜に連なる存在といえるでしょう。

上演の記録|2024年歌舞伎座からシネマ歌舞伎・衛星劇場放送まで

  • 2024年10月2日〜26日:歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」夜の部にて初演(連日完売)
  • 2025年9月26日:新作シネマ歌舞伎として全国の映画館で公開
  • 2026年2月27日:CS放送「衛星劇場」にてテレビ初放送

シネマ歌舞伎とは、歌舞伎座などでの実際の公演を高精細なカメラで撮影し、映画館の大スクリーンで上映する松竹の企画です。
役者の細かな表情や衣裳の質感まで間近で見られるのが特徴で、劇場に足を運べなかった人はもちろん、一度観劇した人が舞台の記憶を確かめ直す楽しみ方もできます。

本作もこのシネマ歌舞伎として公開されたことで、歌舞伎座に足を運べなかった人でも、映画館や衛星劇場を通じてこの舞台の熱量を追体験できるようになりました。
古典を題材にしながらも新たに脚色された作品は、当サイトで紹介している新作歌舞伎とも共通し、ストーリーがわかりやすいため歌舞伎初心者にも入りやすい演目のひとつです。

今後、歌舞伎座や地方公演で再演される可能性もありますが、2026年7月時点では次回上演の発表はありません。
再演を待つ間は、シネマ歌舞伎の上映情報や衛星劇場の再放送予定をこまめにチェックしておくとよいでしょう。

まとめ|『源氏物語 六条御息所の巻』は嫉妬と美が交錯する新作歌舞伎

  • 『源氏物語』の「葵」の巻を題材にした新作歌舞伎で、2024年10月に歌舞伎座で初演
  • 坂東玉三郎の六条御息所、市川染五郎の光源氏という組み合わせで連日完売
  • 光源氏・六条御息所・葵の上の三角関係と、嫉妬が生霊へと変わっていく過程が丁寧に描かれる
  • 几帳を使った演出など、平安の雅やかさと嫉妬の闇を同居させる舞台美術も見どころ
  • シネマ歌舞伎化・衛星劇場でのテレビ放送を通じて、劇場以外でも鑑賞が可能

古典『源氏物語』を知らなくても、光源氏をめぐる女性たちの情念のドラマとして十分に楽しめる作品です。
原作や能『葵上』を知っている人は、その違いを比べながら観るとより一層味わい深くなるでしょう。
坂東玉三郎という女方の到達点と、新しい世代の役者が共演することで生まれた化学反応も含めて、記憶に残る一作といえます。

歌舞伎をもっと楽しむためのおすすめ本

歌舞伎は、あらすじや登場人物を少し知ってから観劇すると、面白さが何倍にも広がります。

当サイトでも作品の見どころや背景を詳しく解説していますが、「もっと歌舞伎について知りたい」「自宅でも学びたい」という方には、初心者にも読みやすい入門書がおすすめです。

今回は、歌舞伎の基本から演目の魅力まで楽しく学べる2冊をご紹介します。

マンガで教養 やさしい歌舞伎鑑賞

歌舞伎の歴史や約束事、舞台の見方などをマンガとイラストでわかりやすく解説した入門書です。

「歌舞伎って難しそう…」という方でも読み進めやすく、初めて観劇する前の予習にもぴったり。基礎知識を身につけたい方におすすめの一冊です。

歌舞伎の101演目 解剖図鑑

人気演目のあらすじや見どころを、豊富なイラストとともに紹介した一冊です。

代表的な演目を幅広く知ることができるため、「次はどの作品を観ようかな」と考えている方や、観劇後に作品を振り返りたい方にも役立ちます。

よくある質問(FAQ)

『源氏物語 六条御息所の巻』はいつ、どこで上演されましたか?

2024年10月2日〜26日、歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」の夜の部で初演されました。
坂東玉三郎の六条御息所、市川染五郎の光源氏という配役で、連日チケットが完売する人気公演となりました。

六条御息所とはどんな人物ですか?

光源氏の年上の恋人で、気品と教養を兼ね備えた女性です。
光源氏の正妻・葵の上への嫉妬から生霊となり、葵の上を苦しめてしまうという『源氏物語』屈指の名場面で知られています。

能『葵上』とはどう違うのですか?

能『葵上』では葵の上を一枚の小袖で象徴的に表現し、六条御息所の生霊のみが般若の面をつけて登場する、抽象度の高い演出です。
一方、歌舞伎版では光源氏・六条御息所・葵の上の三者をそれぞれ役者が演じ、三角関係の人間ドラマとして具体的に描かれる点が異なります。

光源氏を演じた市川染五郎はどんな役者ですか?

市川染五郎は、本作の上演当時19歳。
稽古では共演の坂東玉三郎から「先輩・後輩や年齢は考えないで」と対等な立場で意見を求められ、次第に自分の考えをはっきりと口にするようになったといいます。
世代を超えた二人のやり取りも、この作品の見どころのひとつです。

『源氏物語』を読んでいなくても楽しめますか?

楽しめます。
光源氏をめぐる嫉妬と恋愛のドラマとして独立して鑑賞できる内容で、ストーリーもわかりやすく、歌舞伎初心者にもおすすめの新作歌舞伎です。

舞台を観られなくても鑑賞する方法はありますか?

2025年9月26日から新作シネマ歌舞伎として全国の映画館で公開されました。
また2026年2月27日にはCS放送「衛星劇場」でテレビ初放送もされており、劇場公演を見逃した方でも鑑賞できる機会が用意されています。

あわせて読みたい

🎭 観劇のおともに【PR】

※本セクションには広告(Amazonアソシエイト)リンクを含みます。

Kindle Unlimited 読み放題を無料で試す

歌舞伎の入門書・解説本も読み放題対象多数。観劇前の予習に

Prime Videoを30日間無料で試す

映画・ドラマ・アニメが見放題。まずは30日間の無料体験から

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次