『阿蘭陀萬歳(おらんだまんざい)』は、オランダ人に扮した二人が、日本の祝い芸「萬歳」を披露する舞踊です。
長崎くんちで奉納される踊りとしても知られています。
陽気でおかしな踊りの奥に、異国の地で生きる人々という設定があるのも興味深いところ。
この記事では、あらすじと登場人物、見どころ、作品の由来を、歌舞伎が初めての方にもわかりやすく解説します。
『阿蘭陀萬歳』のあらすじ|漂着したオランダ人が萬歳を覚える物語
『阿蘭陀萬歳』は、長崎に漂着したオランダ人が、暮らしの糧として萬歳を覚え、正月を祝って家々を回るという筋立ての舞踊です。
長崎くんちで踊町(おどりちょう)が奉納する『阿蘭陀万才』の紹介でも、この設定が説明されています。
萬歳とは、新年にめでたい言葉や芸を披露して、人々の幸せを祝う祝い芸のこと。
その役を、異国から来た二人が日本の人々のために演じる、というちぐはぐな取り合わせが、この作品のおかしさの出発点です。
事件が次々と起こり、最後に問題が解決する芝居とは性格が異なります。
二人の掛け合いと踊りを通して、にぎやかな祝いの気分と異国情緒を楽しむ作品です。
長崎くんちでは故郷を思う場面が加わる演出も
長崎くんちの栄町では、2023年に主役を二組にする新しい演出を取り入れ、途中で鐘の音を聞いて故郷を思い出す場面が加わったと報じられました。
二人が「また仲間同士、頑張っていこう」と誓い合い、再び踊り始める流れです。
ただし、これは栄町のその年の演出についての報道です。
すべての上演に共通する筋ではありません。
歌舞伎座での上演内容は、公演が始まってから確かめる必要があります。
『阿蘭陀萬歳』の登場人物|萬歳と才造はどんな役?
中心になる登場人物は、萬歳(まんざい)と才造(さいぞう)の二人です。
歌舞伎座の公式発表でも、役名はこの二つで示されています。
萬歳(まんざい)|扇を持つ祝い芸の主役
祝い芸の中心になる人物です。
長崎市の資料では、シルクハットをかぶり、南蛮風の装いで唐扇子を持つ姿と説明されています。
長崎くんちの報道でも、貫禄のある雰囲気で扇を手にする役とされています。
才造(さいぞう)|鼓を持つ相方
萬歳の相方で、鼓を持ち、ちょこまかと動いて場を盛り上げる役です。
長崎市の資料ではピエロ風の姿と説明されています。
大らかな萬歳と、軽快に動く才造という対照が、掛け合いの面白さになります。
なお、役名の表記は資料によって異なります。
長崎市の資料では「万才・才三」、新聞や観光写真サイトの記事では「万歳・才蔵」「万蔵・才蔵」などとされており、いずれも二人組の祝い芸を指す役名です。
長崎くんちの唐子・町娘
長崎くんちの奉納では、二人に加えて唐子(からこ)や町娘が登場し、にぎやかな演出になっています。
唐子は町内の子どもが扮するのが通例とされます。
歌舞伎座の公式発表で確認できる出演者は、萬歳と才造の二人です。
もともとの萬歳とは
萬歳は、もともと正月に家々を訪れ、めでたい言葉や掛け合いで新年を祝う芸能です。
太夫と才蔵の二人組で演じる形が知られており、『阿蘭陀萬歳』の萬歳・才造はこの形を踏まえています。
異国人に扮した二人がその芸を演じる、という趣向が加わったのが『阿蘭陀萬歳』です。
歌舞伎舞踊としての『萬歳』のあらすじと見どころは、別の記事で紹介しています。
歌舞伎舞踊の基本については、歌舞伎舞踊(所作事)の解説でもまとめています。

『阿蘭陀萬歳』の見どころ|異国風の装いと二人の掛け合い
見どころは、異国風の扮装と、萬歳と才造のユーモラスな掛け合いです。
祝い芸という日本らしい題材を、シルクハットや南蛮風の装いで演じるところに、この作品ならではの面白さがあります。
二人の対照的な動きに注目
扇を持つ萬歳と、鼓を持つ才造では、動きの質が異なります。
どちらか一人だけを追うのではなく、二人が互いに調子を合わせながら踊る様子を見ると、掛け合いの妙がわかります。
萬歳と才造のどちらが場を引っ張っているように見えるか、という視点で観るのもおすすめです。
音楽は箏曲連中
歌舞伎座の公式発表では、『阿蘭陀萬歳』は箏曲連中の演目として案内されています。
歌舞伎舞踊では長唄が使われることが多いため、箏の音色が中心になる舞台は、それだけで目を引きます。
この作品の音楽の成り立ちについては、次の章で触れます。
長崎くんちでは、胡弓や木琴を使った明清楽(みんしんがく)に合わせて踊ると紹介されており、同じ題材でも音楽の編成は上演の場によって異なります。
異国の人々という設定を思いながら観る
二人は、最初から日本の萬歳を知っていた人物ではありません。
漂着した異国の地で、暮らしのために芸を覚えたという設定です。
おかしさを素直に楽しむだけで十分ですが、この設定を頭に置いておくと、二人の懸命な芸にも、また違った味わいが生まれます。
歌舞伎の音楽に興味がある方は、歌舞伎の音楽入門もあわせてどうぞ。

『阿蘭陀萬歳』の由来|箏曲から舞踊へ、長崎くんちとの関係
『阿蘭陀萬歳』は、最初から現在のような舞踊として生まれたわけではありません。
もとは江戸時代の箏曲にさかのぼります。
オルゴールに着想を得た箏曲
世界大百科事典によると、『阿蘭陀万歳』は箏曲の一曲で、市浦検校(いちうらけんぎょう)の作曲です。
18世紀末、城志賀(じょうしが)が作曲した地歌の端歌『万歳』に、オランダから渡来したオルゴールにヒントを得た「オランダ調子」で箏の手を付けたものとされています。
主旋律とは別の旋律を重ねる「替手(かえて)式」と呼ばれる箏曲の、先駆けともいわれる重要な曲です。
つまり「阿蘭陀」の名は、舞踊の設定だけでなく、音楽の工夫にも由来しているのです。
長唄舞踊として創作され、長崎くんちへ
長崎市の資料によると、歌詞は三河万才のオランダ版として作詞されたと考えられるもので、江戸時代に京阪地方で琴唄として使われていました。
これを1933年(昭和8年)に長唄舞踊「おらんだ万才」として創作発表し、翌1934年(昭和9年)に長崎の町検番へ伝わったとされています。
そして1951年(昭和26年)、新橋町が長崎くんちに奉納しました。
現在は新橋町のほか、栄町と万才町も阿蘭陀万才を奉納する踊町です。
栄町では、初演から長らく女性が演じてきたなかで、2013年に男性二人組による奉納が初めて行われました。
同じ作品でも、時代とともに演じ方が変わってきたことがうかがえます。
歌舞伎座の上演は長崎くんちと同じとは限らない
長崎くんちの『阿蘭陀万才』は、踊町が奉納する芸能です。
歌舞伎座で歌舞伎俳優が演じる『阿蘭陀萬歳』と、衣裳や構成がまったく同じとは限りません。
長崎のお祭りの演出を、そのまま歌舞伎座で観られると思い込まないようにしましょう。
壽 初春大歌舞伎で観られる『阿蘭陀萬歳』|出演者と公演情報
『阿蘭陀萬歳』は、2027年1月の歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」の昼の部で上演されます。
昼の部の幕開きを飾る演目です。
出演者は、次のとおり発表されています。
| 役名 | 出演 |
|---|---|
| 萬歳 | 尾上松也 |
| 才造 | 坂東巳之助 |
公演期間は2027年1月2日(土)〜26日(火)で、8日(金)と18日(月)は休演です。
昼の部は午前11時開演です。
この開演時刻は昼の部全体のもので、『阿蘭陀萬歳』単独の上演時間ではありません。
昼の部では、このあと『お祭り』、『鶴亀』と続きます。
残りの演目やチケットの買い方、料金は、歌舞伎座の初春大歌舞伎の記事でまとめています。

実際の衣裳や振付、物語の見せ方は、2026年11月2日時点では詳しく発表されていません。
公演が近づくと、詳しい内容が発表される可能性があります。
『阿蘭陀萬歳』に関するよくある質問(FAQ)
- 『阿蘭陀萬歳』はどんな話ですか?
-
長崎に漂着したオランダ人が、暮らしのために萬歳を覚え、正月を祝って家々を回るという設定の舞踊です。
事件が展開する芝居ではなく、二人の掛け合いと踊りを楽しむ作品です。 - 読み方は「おらんだまんざい」ですか?
-
はい、「おらんだまんざい」と読みます。
「萬歳」は「万歳」「万才」と書かれることもあります。
歌舞伎座の公式発表では『阿蘭陀萬歳』と表記されています。 - 『阿蘭陀萬歳』は初心者でも楽しめますか?
-
事前に覚えておく人物関係は、萬歳と才造の二人だけです。
異国風の装いと軽快な掛け合いが中心なので、初めての方にも観やすい演目です。 - 長崎くんちの『阿蘭陀万才』と同じものですか?
-
同じ作品の系譜にあたりますが、上演の場が違うため、出演者や構成まで同じとは限りません。
長崎くんちでは踊町が奉納し、唐子や町娘が加わる演出もあります。 - 2027年の歌舞伎座では誰が演じますか?
-
萬歳を尾上松也、才造を坂東巳之助が勤めると発表されています。
2027年1月の「壽 初春大歌舞伎」昼の部で上演されます。
歌舞伎が初めての方へ
歌舞伎自体が初めてだと「どう観ればいいの?」と迷うこともあるかもしれません。
歌舞伎には独特の約束ごとや表現がありますが、基本を少し知っておくだけで、面白さがぐっと伝わりやすくなります。
歌舞伎とは?初心者向けにわかりやすく解説

まとめ|異国の二人が祝い芸を踊る『阿蘭陀萬歳』
『阿蘭陀萬歳』は、長崎に漂着したオランダ人が萬歳を演じるという趣向の舞踊です。
異国風の装いと、萬歳と才造の掛け合いが見どころで、箏曲から生まれたという成り立ちにも歴史があります。
観劇するときは、二人の動きの違いと、箏の音色に注目してみてください。
二人がどんな調子で祝い芸を披露するのかを楽しむだけでも、新年にふさわしい幕開きになるはずです。
※歌舞伎座での衣裳・振付・構成は、公演によって異なる場合があります。
資料確認日:2026年11月2日。
出演者と日程は、歌舞伎座の公式発表(2026年11月2日時点)に基づきます。
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