「襲名」とは?歌舞伎独特の名前継承の仕組みをわかりやすく解説

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「襲名」とは?

歌舞伎のニュースを見ていると、「八代目」「十三代目」「◯代目襲名」といった言葉が頻繁に登場します。
初めて歌舞伎に触れる人にとっては、「なぜ同じ名前を何人も名乗るのか」「襲名すると何が変わるのか」がわかりにくいポイントかもしれません。

また、「なぜこの人は何度も名前が変わるの?」「屋号と名前はどう違うの?」といった素朴な疑問を持つ人も多いはずです。
この記事では、歌舞伎独特の「襲名(しゅうめい)」という仕組みについて、意味や目的、誰が襲名できるのか、襲名披露公演でどんなことが行われるのかまで、初心者にもわかりやすく解説します。
あわせて、近年話題になった主な襲名披露についてもまとめて紹介します。

目次

襲名とは?歌舞伎独特の「名跡(みょうせき)」名前継承の仕組み

歌舞伎の公式サイトである歌舞伎美人(歌舞伎公式サイト)の用語集では、襲名は次のように説明されています。

俳優が名前を継ぐことを指す。
歌舞伎では、俳優がある節目を迎えたときに、先祖や父兄、師匠が名のっていた名前、それぞれの家で受け継がれてきた名前を継いでいく。
名前だけでなく、型なども受け継がれていくことが、歌舞伎の特徴である。

つまり襲名とは、単なる改名ではなく、その名前を代々背負ってきた家の芸・型・精神までをまとめて受け継ぐ儀式的な節目のことです。
受け継がれる名前は「名跡(みょうせき)」と呼ばれ、市川團十郎・尾上菊五郎・松本幸四郎・中村勘三郎など、何百年にもわたって受け継がれてきたものも少なくありません。

芸能人が使う「芸名」は本人が自由に選べますが、歌舞伎の名跡は家によって管理されており、本人の実力や役者としての節目にふさわしいタイミングで、周囲や家元の判断のもとに受け継がれていく点が大きく異なります。
この「自分だけのものではない名前」を背負うという緊張感こそが、歌舞伎役者としての自覚と責任を育てていくとも言われています。

また、名跡には「格(かく)」と呼ばれる重みの違いがあります。
市川團十郎・尾上菊五郎・松本幸四郎・中村勘三郎・片岡仁左衛門などは、それぞれの家にとって最も重要な「大名跡(だいみょうせき)」にあたり、襲名するまでには長い修業と実績の積み重ねが必要とされます。
一方で、子役時代から名乗る名前は、その家の中では「格」が低めに位置づけられており、成長とともに段階的に格上の名前へと襲名していくのが一般的な流れです。

なぜ名前を継ぐのか|歴史と型を受け継ぐという意味

歌舞伎の世界では、単に名前が変わるだけでなく、その名前とともに「型(かた)」と呼ばれる演技・演出の様式も受け継がれていきます。
例えば、同じ演目・同じ役どころでも、成田屋(市川團十郎家)が演じる型と、音羽屋(尾上菊五郎家)が演じる型では、見得の切り方や台詞回しが異なることがあります。

名前を継ぐことで、観客は「この役者は、あの名優の芸をどう受け継ぎ、どう発展させているのか」という視点で舞台を楽しめるようになります。
何代にもわたって同じ名前・同じ家の芸が続いていくことこそ、歌舞伎という伝統芸能の大きな魅力のひとつです。

もちろん、型をそのまま受け継ぐだけでなく、時代に合わせて新しい解釈を加えていくことも歌舞伎の伝統です。
先代の型を土台にしながら、自分ならではの工夫を加えていく役者も多く、同じ名跡・同じ演目でも、代替わりのたびに少しずつ違った魅力が生まれていきます。
この「継承と革新」のバランスも、歌舞伎ファンが襲名に注目する理由のひとつです。

誰が襲名できるのか|実子・養子・部屋子という道

名跡を継ぐのは、基本的にはその家に生まれた実子であることが多いですが、歌舞伎の世界では必ずしも血縁だけがすべてではありません。
芸の力量や人柄が認められれば、養子として家に入り名跡を継ぐケースや、内弟子である「部屋子(へやこ)」として師匠のもとで修業を積み、実力を認められて名跡を継ぐケースもあります。

部屋子は、歌舞伎の家に生まれたわけではない、いわば一般家庭出身の子どもが、師匠のもとに預けられて厳しい稽古を積むところから始まります。
血縁がなくても、幼い頃からの努力と実力次第で名跡を継承できるこの仕組みは、歌舞伎という世界に新しい才能を呼び込む重要な役割も果たしてきました。

また、同じ人物が生涯に何度も改名することも珍しくありません。
子役時代の名前から始まり、成長の節目ごとに名前を継ぎ上げていき、最終的に大名跡(重要な名前)へとたどり着く、というのが一般的な流れです。
例えば十三代目市川團十郎は、六代目新之助・八代目海老蔵といった名前を経て、團十郎を襲名しています。
このように、一人の役者が生涯で何度も名前を変えながら格を上げていく様子は、歌舞伎ファンにとって役者の成長を追う大きな楽しみのひとつになっています。

近年では、親と子が同じ公演で同時に襲名する「親子同時襲名」も話題になっています。
父が大名跡を継ぎ、同時に子どもがその子ども時代の名前を継ぐことで、家の芸が途切れることなく次の世代へ受け継がれていく様子を、観客は一つの公演のなかで見届けることができます。
親から子へと同じ舞台の上でバトンが渡される瞬間は、長年応援してきたファンにとって、何にも代えがたい感動的な場面になります。

襲名披露公演の流れ|口上・襲名披露狂言

襲名が決まると、劇場で「襲名披露公演」が行われます。
大きな名跡の場合、歌舞伎座での披露興行だけでなく、南座や博多座など複数の劇場を巡る形で、数ヶ月にわたって披露が続くことも珍しくありません。

襲名披露公演で欠かせないのが「口上(こうじょう)」です。
幕間に襲名した本人や一門の役者たちが舞台上に並び、観客に向けて挨拶を述べる特別な儀式で、詳しくは以下の記事で解説しています。

また、襲名披露にふさわしい演目として「襲名披露狂言」が上演されます。
正月に上演される『寿曽我対面』は、めでたい席にふさわしい演目として、襲名披露や初春公演で選ばれることの多い代表的な一幕です。
このほかにも、その家の芸を象徴する演目が選ばれることが多く、どの演目で披露されるかにも、それぞれの家の伝統や思い入れが表れています。

公演の初日には、贔屓筋や関係者を招いて祝う「初日乃儀」が行われるほか、地域によっては襲名する役者が街を練り歩く「お練り」が催されることもあります。
大阪・道頓堀の「道頓堀お練り」などはその代表例で、地元の商店街を役者が挨拶しながら歩く姿を、間近で見られる貴重な機会として親しまれています。
チケットを持っていなくても沿道から見られることが多く、地元の人々を巻き込んだお祭りのような賑わいになるのも特徴です。

大きな名跡の襲名では、歌舞伎座での公演を皮切りに、京都・南座、大阪、博多座、そして地方の芝居小屋まで、数ヶ月から1年近くにわたって披露興行を続けることもあります。
これは、日頃なかなか歌舞伎座に足を運べない地方のファンにも、新しい名跡の誕生を直接見てもらいたいという意味合いも込められています。

襲名披露公演は、その名跡にとって一世一代の特別な公演であるため、チケットの人気も非常に高くなります。
発売開始からすぐに完売してしまう部・日程も珍しくないため、観たい襲名披露が決まっている場合は、早めの行動が肝心です。
万が一チケットが取れなかった場合の対処法は、以下の記事にまとめています。

主な名跡と屋号|成田屋・音羽屋・高麗屋・中村屋

歌舞伎の名跡は、それぞれ「屋号(やごう)」と呼ばれる家の呼び名とセットで語られます。
代表的な組み合わせは次のとおりです。

屋号代表的な名跡
成田屋市川團十郎・市川海老蔵・市川新之助
音羽屋尾上菊五郎・尾上菊之助
高麗屋松本幸四郎・市川染五郎
中村屋中村勘三郎・中村勘九郎・中村七之助

興味深いのは、屋号は必ずしも一つの名跡だけに紐づくものではなく、同じ屋号のもとに複数の名跡が存在するという点です。
例えば成田屋であれば市川團十郎のほかに市川海老蔵・市川新之助といった名跡があり、それぞれが段階を踏んで継承されていきます。
屋号と名跡の全体像については、こちらの記事で網羅的に紹介しています。

なぜファンは襲名を熱心に追うのか

襲名は、単なる名前の変更にとどまらず、その役者の人生の大きな節目そのものです。
子役時代から見守ってきたファンにとっては、幼かった役者が名跡にふさわしい貫禄を身につけていく過程そのものが、大きな感動を呼ぶドラマになります。

また、襲名披露興行では、その役者の当たり役や、家の芸を代表する演目が上演されることが多く、ファンにとっては「これから何十年もこの名前で活躍していく姿」を、最初の一歩から見届けられる貴重な機会でもあります。
だからこそ、襲名披露公演は特に高い人気を集め、チケットも取りづらくなる傾向があります。

近年の主な襲名披露まとめ

2020年代に入ってからも、歌舞伎界ではさまざまな屋号で大きな襲名披露が続いています。
それぞれの襲名の背景や見どころは家によって異なり、比べて読んでみるとより理解が深まります。
関連する公演・プロフィール記事をまとめましたので、気になる名跡から読んでみてください。

  • 十三代目市川團十郎・八代目市川新之助(成田屋の親子同時襲名)
  • 八代目尾上菊五郎(音羽屋・親子W襲名)
  • 十代目松本幸四郎・八代目市川染五郎(高麗屋三代同時襲名)
  • 三代目尾上辰之助(音羽屋・團菊祭にちなむ襲名)

また、市川團十郎の襲名披露の舞台裏を追ったドキュメンタリー映画も公開されています。
襲名という儀式が役者や一門にとってどれほど大きな意味を持つのか、映像を通じて知ることができます。

よくある質問(FAQ)

襲名とはどういう意味ですか?

俳優が、先祖や父兄、師匠が名乗っていた名前(名跡)を受け継ぐことです。
名前だけでなく、その家に伝わる芸や型も一緒に受け継がれる点が歌舞伎の大きな特徴です。

襲名は血縁がないとできませんか?

いいえ。
実子が継ぐケースが多いものの、養子として家に入るケースや、内弟子(部屋子)として修業を積み実力が認められて名跡を継ぐケースもあります。

襲名披露公演では何が行われますか?

「口上」と呼ばれる舞台上での挨拶や、『寿曽我対面』などのめでたい演目を用いた「襲名披露狂言」が行われます。
歌舞伎座だけでなく、南座や博多座など複数の劇場を巡って披露されることもあります。

同じ名前を何人も名乗るのはなぜですか?

市川團十郎や尾上菊五郎のように、家にとって重要な名跡は「◯代目」という形で代々受け継がれていくためです。
名前を継ぐたびに、その名跡にふさわしい芸を身につけていくことが期待されます。

名跡と屋号はどう違いますか?

名跡は「市川團十郎」のような役者個人が代々受け継ぐ名前で、屋号は「成田屋」のようにその家全体を指す呼び名です。
観客が舞台で役者に声をかける「大向う」の掛け声にも、屋号がよく使われます。

襲名披露公演のチケットは取りづらいですか?

はい、傾向として非常に人気が高く、発売開始からすぐに完売することも珍しくありません。
観たい公演が決まっている場合は、松竹歌舞伎会の先行発売を利用するなど、早めの行動がおすすめです。

まとめ|襲名は名前と芸を受け継ぐ歌舞伎ならではの節目

歌舞伎の襲名について振り返ると、次のようにまとめられます。

  • 襲名とは、先祖や師匠が名乗っていた名前(名跡)と、その芸・型を受け継ぐこと
  • 実子だけでなく、養子や部屋子(内弟子)が継ぐケースもある
  • 襲名披露公演では「口上」や「襲名披露狂言」が行われる
  • 成田屋・音羽屋・高麗屋・中村屋など、屋号ごとに代表的な名跡がある
  • 子役時代から段階的に名前を継ぎ上げ、最終的に大名跡へとたどり着くのが一般的な流れ
  • 襲名披露公演は特に人気が高く、チケットは早めの確保がおすすめ

襲名は、歌舞伎の長い歴史のなかで、芸と精神を次の世代へつなぐ大切な儀式です。
一つの名前の裏には、初代から続く長い系譜と、それを受け継いできた役者たちの努力の積み重ねがあります。
次に「◯代目」というニュースを目にしたときは、その名跡がどんな歴史を背負ってきたのか、ぜひ想像しながら観劇してみてください。
きっと、これまでとは違う視点で歌舞伎の舞台を楽しめるはずです。

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