二代目尾上松也が2009年に始めた歌舞伎自主公演「挑む」。
古典歌舞伎の舞踊や名作に取り組む一方、能楽堂での外伝、新作歌舞伎などにも挑戦してきた公演です。
松也は20歳で父・六代目尾上松助を亡くし、父の弟子たちを引き受けました。
また、市川亀治郎(現・四代目市川猿之助)の自主公演に出演した経験がきっかけとなり、2009年から「挑む」を始めています。
2009年の前進座劇場から始まった「挑む」は、2021年の「挑むVol.10〜完〜」で一区切りを迎えます。
最終公演では、高校時代からの友人である生田斗真を特別出演に迎え、新作歌舞伎「赤胴鈴之助」を上演しました。
この記事では、「挑む」が始まった経緯と、全11公演の歩みを確認できる事実に沿って紹介します。
「挑む」とは?尾上松也が2009年から続けた自主公演
「挑む」は、二代目尾上松也が主催してきた歌舞伎の自主公演です。
2009年11月28日、前進座劇場で開催された「挑む 若き歌舞伎役者の舞」から始まりました。
自主公演とは、通常の劇場公演とは別に、俳優自身が中心となって企画する公演です。
「挑む」では、松也がさまざまな演目や役に取り組み、前進座劇場、玉川区民会館、日本橋公会堂、神奈川芸術劇場、セルリアンタワー能楽堂など、複数の会場で上演を重ねました。
公演名には、「若き歌舞伎役者の舞」「歌舞伎役者の粋と意気」「傾く者の繋ぐ技量」「更なる幕へ勇みし気迫(こころ)」など、その時々の公演を象徴する言葉が付けられています。
「挑む」という題名の通り、舞踊から時代物・世話物、狂言を含む構成、そして新作歌舞伎まで、幅のある演目が並んでいることが特徴です。
また、2012年と2016年には「挑む 〜外伝〜」をセルリアンタワー能楽堂で開催しています。
通常の歌舞伎劇場とは異なる空間で、「翁千歳三番叟」「狂言 樋の梅」「素襖落」や、「素踊り汐汲」「橋弁慶」「新設武悪」が上演されました。
2017年のVol.9は大阪と東京で開催され、それぞれ異なる演目を上演。
2021年には、本多劇場で新作歌舞伎「赤胴鈴之助」に取り組み、「Vol.10〜完〜」としてシリーズに一区切りを付けています。
なお、本記事でいう「全11回」とは、開催記録上の公演を数えたものです。
Vol.9は大阪公演と東京公演が別に行われたため、この2公演を含めて計11公演となります。
始まりのきっかけ|父の死と、亀治郎の自主公演
二代目尾上松也は、本名を井上龍一といい、1985年1月30日に東京都中央区で生まれました。
屋号は音羽屋です。
1990年5月、5歳のときに父・六代目尾上松助の襲名披露にあわせ、歌舞伎座「伽羅先代萩」の鶴千代役で二代目尾上松也として初舞台を踏みました。
大きな転機となったのは、2005年12月26日の父・松助の死です。
当時20歳だった松也は、父の弟子であった3人の後見を自ら引き受けました。
若くして、自分自身の俳優としての道だけでなく、父からつながる人々を背負う立場になったのです。
その後、市川亀治郎、現在の四代目市川猿之助が行っていた自主公演に出演。
この経験をきっかけに、松也も2009年から自主公演「挑む」を始めたとされています。
ただし、松也が具体的に亀治郎のどの公演へ出演したのかまでは、今回参照した資料では確認できません。
そのため、「亀治郎の自主公演への出演経験が、自身の自主公演を始めるきっかけになった」という範囲で捉えるのが適切でしょう。
自主公演は、俳優が自ら取り組みたい演目や表現を形にできる場である一方、継続して開催すること自体が一つの挑戦でもあります。
松也は歌舞伎に加え、「ボクの四谷怪談」「エリザベート」「新感線☆RS メタルマクベス」など、ミュージカルや現代劇にも出演してきました。
さらに2019年には、山崎育三郎、城田優とともにユニット「IMY」を結成しています。
活動の幅を歌舞伎以外にも広げながら、自主公演「挑む」を積み重ねてきた点は、その歩みを知るうえで見逃せません。
松也が自主公演を始める契機に関心がある方は、関連記事の「亀治郎の会」とはもあわせてご覧ください。
松也の初舞台や家族については、尾上松也の家系図とは?で紹介しています。

全11回の歩み|前進座劇場からセルリアンタワー能楽堂まで
「挑む」の開催記録を、初公演から「Vol.10〜完〜」まで一覧にしました。
以下の「第一回」から「第八回」という番号は、記録の掲載順を分かりやすく示すために本記事で便宜上付けたものです。
各公演で公式に「第○回」という呼称が使われていたことを示すものではありません。
一方、Vol.9とVol.10は実際の公演名に使われた表記です。
| 回 | 公演名 | 開催日・会場 | 演目 |
|---|---|---|---|
| 第一回 | 挑む 若き歌舞伎役者の舞 | 2009年11月28日、前進座劇場 | 松の羽衣、太刀盗人 |
| 第二回 | 挑む 歌舞伎役者の華麗な舞 | 2010年11月29日、玉川区民会館 | 鶴亀、二人椀久、棒しばり |
| 第三回 | 挑む 歌舞伎役者の粋と意気 | 2011年8月20日・21日、前進座劇場 | 子宝三番叟、三社祭、与話情浮名横櫛-源氏店- |
| 第四回 | 挑む 〜外伝〜 | 2012年8月6日・7日、セルリアンタワー能楽堂 | 翁千歳三番叟、狂言 樋の梅、素襖落 |
| 第五回 | 挑む 傾く者の繋ぐ技量 | 2013年8月22日・23日、日本橋公会堂 | 助六、三人吉三巴白浪-大川端庚申塚の場-、身替座禅 |
| 第六回 | 挑む 熱き役者の新たな軌跡 | 2014年8月13日〜15日、日本橋公会堂 | 双蝶々曲輪日記-引窓-、お祭り |
| 第七回 | 挑む 更なる幕へ勇みし気迫(こころ) | 2015年8月8日、神奈川芸術劇場 | 操り三番叟、二人椀久、二人袴 |
| 第八回 | 挑む 〜外伝〜 | 2016年7月13日〜15日、セルリアンタワー能楽堂 | 素踊り汐汲、橋弁慶、新設武悪 |
| Vol.9大阪公演 | 挑むVol.9 大阪公演 | 2017年8月4日〜6日、ABCホール | 三社祭、二人袴 |
| Vol.9東京公演 | 挑むVol.9 東京公演 | 2017年8月22日〜24日、日本橋公会堂 | 番町皿屋敷(番町青山家の場)、乗合船恵方萬歳 |
| Vol.10〜完〜 | 挑むVol.10〜完〜 | 2021年8月13日〜22日、本多劇場 | 新作歌舞伎「赤胴鈴之助」(赤胴鈴之助、平将門、金野鉄之助) |
初期の公演を見ると、2009年の「松の羽衣」「太刀盗人」、2010年の「鶴亀」「二人椀久」「棒しばり」と、複数の舞踊や演目を組み合わせています。
第一回で上演された作品については、「太刀盗人」のあらすじも参考にしてください。
2011年の公演では「子宝三番叟」「三社祭」に加え、「与話情浮名横櫛-源氏店-」を上演しました。
「三社祭」は、2017年のVol.9大阪公演でも再び演目に選ばれています。
作品について詳しく知りたい方は、歌舞伎舞踊「三社祭」とはをご覧ください。
2012年の「外伝」を挟み、2013年には「助六」「三人吉三巴白浪-大川端庚申塚の場-」「身替座禅」を上演。
2014年は「双蝶々曲輪日記-引窓-」と「お祭り」という構成でした。
2015年の「更なる幕へ勇みし気迫(こころ)」では、「操り三番叟」「二人椀久」「二人袴」が並びます。
「操り三番叟」は、人形振りを見どころとする舞踊です。
演目をより深く知るには、「操り三番叟」とはもお読みください。

2016年には、再びセルリアンタワー能楽堂で「外伝」を開催。
そして2017年のVol.9では、上演地を大阪と東京に広げました。
大阪公演は「三社祭」「二人袴」、東京公演は「番町皿屋敷(番町青山家の場)」「乗合船恵方萬歳」と、会場によって内容が異なります。
参照した開催記録には、2018年、2019年、2020年に該当する「挑む」の公演は記載されていません。
ただし、この3年間に開催されなかったのか、資料上で記録を確認できないだけなのかは不明です。
理由を含め、確認できない部分を推測することはできません。
そして2021年、「挑むVol.10〜完〜」が本多劇場で開催されました。
それまでの複数演目による構成とは異なり、新作歌舞伎「赤胴鈴之助」を掲げた公演となりました。
Vol.10〜完〜|生田斗真と実現した「赤胴鈴之助」
シリーズの節目となった「挑むVol.10〜完〜」は、2021年8月13日から22日まで本多劇場で開催されました。
演目は、新作歌舞伎「赤胴鈴之助」です。
原作は、1954年から1960年にかけて雑誌『少年画報』に連載された漫画「赤胴鈴之助」。
松也の父・六代目尾上松助が、子役時代にテレビドラマ版で演じたことのある作品でもあります。
新作歌舞伎では、松也が赤胴鈴之助、平将門、金野鉄之助の3役を演じました。
さらに、俳優の生田斗真が特別出演しています。
松也と生田は堀越高校時代の同級生です。
高校時代には互いの家を頻繁に行き来するほど親しい間柄でした。
歌舞伎を中心に歩んできた松也と、俳優として映像や舞台で活動してきた生田が、「挑む」の最終公演で共演したことになります。
この公演は、松也にとって「生田斗真と歌舞伎の舞台に立つこと」と、「父が子役時代に演じた『赤胴鈴之助』を歌舞伎化すること」という、かねてから抱いていた二つの夢を実現するものだったと紹介されています。
ただし、この「二つの夢」というエピソードは、今回確認した範囲では一次資料の原文まで確認できていないため、伝聞として捉える必要があります。
父が演じた作品を息子が新作歌舞伎として取り上げ、学生時代からの友人と同じ舞台に立つ――。
松也は、若くして亡くなった父から弟子を引き継いだ経歴を持ちます。
一方、「挑む」は、亀治郎の自主公演に出演した経験をきっかけに始まりました。
そのシリーズは、父との接点を持つ作品によって一つの区切りを迎えています。
なお、「Vol.10〜完〜」の「完」は、この公演をもって「挑む」が一区切りとなったことを示す表記です。
今回の資料からは、その後に同名の自主公演が再開されたという事実は確認できません。
よくある質問(FAQ)
- 「挑む」はいつからいつまで開催されましたか?
-
確認できる最初の公演は、2009年11月28日に前進座劇場で行われた「挑む 若き歌舞伎役者の舞」です。
2021年8月13日から22日まで本多劇場で開催された「挑むVol.10〜完〜」で一区切りとなりました。
開催記録上は全11公演です。
Vol.9が大阪と東京の2公演に分かれているため、Vol.10まででありながら、公演数は11となります。 - なぜ「挑む」という自主公演を始めたのですか?
-
松也が、市川亀治郎、現在の四代目市川猿之助の自主公演に出演したことがきっかけです。
その経験を経て、2009年から自身の自主公演「挑む」を主催するようになりました。
ただし、どの自主公演への出演が直接の契機だったのかは、確認できた資料だけでは特定できません。 - 「挑む」は今も続いていますか?
-
2021年の公演には「挑むVol.10〜完〜」という名称が付けられており、ここでシリーズは一区切りとなりました。
今回参照した資料の範囲では、それ以降に「挑む」の名称で開催された公演は確認できません。 - 2018年から2020年にも公演はありましたか?
-
参照した開催記録には、2018年、2019年、2020年の「挑む」に該当する公演が記載されていません。
ただし、実際に休止していたのか、単に今回の資料で記録を確認できないのかは不明です。
そのため、この期間の開催状況や、記載がない理由を断定することはできません。 - Vol.10「赤胴鈴之助」はどのような公演でしたか?
-
2021年8月13日から22日まで本多劇場で行われた、「挑む」の最終公演です。
新作歌舞伎「赤胴鈴之助」を上演し、松也は赤胴鈴之助、平将門、金野鉄之助を演じました。
堀越高校時代の同級生である生田斗真が特別出演したことも、大きな特徴です。
原作は1954年から1960年まで『少年画報』に連載された漫画で、松也の父・六代目尾上松助も子役時代にテレビドラマ版で演じていました。 - 一覧にある「第一回」から「第八回」は公式名称ですか?
-
公式名称であることは確認できません。
本記事では、公演の順序を分かりやすくするため、2009年から2016年までの公演に便宜上「第一回」から「第八回」と付けています。
「Vol.9」と「Vol.10〜完〜」については、実際の公演名で使われた表記です。
歌舞伎が初めての方へ
歌舞伎自体が初めてだと「どう観ればいいの?」と迷うこともあるかもしれません。
歌舞伎には独特の約束ごとや表現がありますが、基本を少し知っておくだけで、面白さがぐっと伝わりやすくなります。
歌舞伎とは?初心者向けにわかりやすく解説

まとめ
尾上松也の自主公演「挑む」は、2009年の前進座劇場公演から始まり、2021年の「Vol.10〜完〜」まで展開されました。
Vol.9の大阪・東京公演をそれぞれ数えると、確認できる公演は全11回です。
その原点にあったのは、市川亀治郎の自主公演に出演した経験でした。
松也は20歳で父・六代目尾上松助を亡くし、その弟子3人を引き受けています。
「挑む」は、亀治郎の自主公演に出演した経験をきっかけに、2009年に始まりました。
舞踊、古典作品、能楽堂での「外伝」などを重ね、最後は生田斗真を特別出演に迎えた新作歌舞伎「赤胴鈴之助」へと到達しました。
「挑む」は、松也が主催し、さまざまな演目に取り組んだシリーズです。
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