【歌舞伎のジャンル】初めての人向けの歌舞伎のお約束事パート2

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歌舞伎は、実はジャンルがはっきりと分かれている演劇です。

もし最初に観た作品が自分の好みに合わなければ、「なんだか難しい」「意味がよくわからない」と感じてしまうこともあるかもしれません。

けれど、それは歌舞伎が分かりにくいのではなく、まだ自分に合うジャンルに出会っていないだけかもしれません。

この記事では、歌舞伎のジャンルを体系的に整理し、それぞれの違いと特徴をわかりやすく解説します。

ジャンルを知ることで、作品の見方が変わり、楽しみ方もぐっと広がります。

「とりあえず何を観ればいいの?」という方は、
初心者向けにおすすめ演目をまとめた別記事もご用意しています。
まずはそちらからご覧いただくのもおすすめです。

目次

【保存版】歌舞伎のジャンル分類総まとめ

歌舞伎のジャンルは、
「何を描くか」「どう演じるか」「どう生まれたか」など、
複数の軸で分類できます。

実はひとつの作品が、いくつもの分類にまたがることもあります。

✔ 物語の時代
✔ 演技様式
✔ 題材
✔ 成立背景
✔ 伝承形式

など、複数の視点から整理できます。

本記事では、それらを体系的に整理します。

物語の時代による分類

時代物(じだいもの)

「時代物」は、江戸時代の人々にとっての聖徳太子や源義経、織田信長といった過去の英雄や貴族の世界を描いたものです。

代表的な三大名作(時代物)

これらは「義太夫狂言(ぎだゆうきょうげん)」とも呼ばれ、人形浄瑠璃から移された重厚な物語です。

演目名概要
『仮名手本忠臣蔵』主君の仇討ちを果たす47人の武士の物語。日本で最も有名な時代物。
『義経千本桜』源平合戦の後、生き延びた平家の武将たちの悲劇を描く。
『菅原伝授手習鑑』菅原道真の左遷を軸に、三つ子の兄弟の別れと忠義を描く。

世話物(せわもの)

「時代物」が歴史上の英雄を描く大河ドラマなら、「世話物(せわもの)」は当時の江戸の街角で実際に起きていた事件や流行を切り取った「ワイドショー的リアリティ・ドラマ」です。

お殿様や姫君ではなく、八百屋、魚屋、芸者、泥棒といったフツーの庶民が主人公になります。

世話物の中でも、特に有名なジャンルが2つあります。

  • 心中物(しんじゅうもの): 近松門左衛門が確立。義理やしがらみに縛られ、現世では結ばれない男女が「来世で結ばれよう」と死を選ぶ、究極のラブストーリーです。
  • 生世話(きぜわ): 幕末に流行。より泥臭く、当時の下層社会のリアルを過激に描いたもの。ちょっとした悪事や、スカッとする泥棒の活躍などが人気でした。

代表的な演目

世話物には、今でもドラマのリメイクに使われるような「キャラの濃い」作品が揃っています。

演目名特徴
『東海道四谷怪談』日本で最も有名な幽霊話。お岩さんの復讐劇。当時の世相を反映した、元祖ホラー世話物。
『弁天娘女男白浪』「知らざあ言って聞かせやしょう」の名セリフで有名。女装した美少年の泥棒が正体を明かす爽快劇。
『与話情浮名横櫛』「お富さん」の歌でも有名。訳ありの美男美女が再会する、色気たっぷりの物語。
『曽根崎心中』遊女・お初と手代・徳兵衛が、来世での再会を誓って曽根崎の森で心中する悲恋劇です。

新歌舞伎

明治以降の近代劇的作品。

西欧の演劇や小説の影響を受けた、文学色の強い作品が、近代的な演技・演出のものが多い。

時代物・世話物との決定的な違い

新歌舞伎は、古典のジャンルを借りつつも中身が「近代的」です。

演目名特徴
『修禅寺物語(しゅぜんじものがたり)』岡本綺堂 作。仮面作りの職人とその娘の執念を描いた、芸術家魂の物語。
『元禄忠臣蔵(げんろくちゅうしんぐら)』真山青果 作。同じ忠臣蔵でも、派手な立ち回りより「なぜ切腹しなければならないのか」という緻密な論理と対話が中心。
『一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)』長谷川伸 作。かつての恩人に報いようとする、渡世人の切ない人情ドラマ(股旅物)。

新作歌舞伎

「新作歌舞伎(しんさくかぶき)」は主に第二次世界大戦後から現代にかけて作られている、現在進行形の歌舞伎です。

最大の特徴は、「歌舞伎の枠組みを借りて、現代のエンターテインメントと融合させる」という、非常に自由でパワフルな姿勢にあります。

演目名特徴
スーパー歌舞伎II『ワンピース』漫画『ONE PIECE』が原作。ルフィの冒険を歌舞伎の技法で描き、社会現象に
『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』人気ゲームが原作。三日月宗近などの刀剣男士たちが、歌舞伎の様式美で戦う。
『風の谷のナウシカ』宮崎駿の漫画版を完全舞台化。メーヴェでの宙乗りや、王蟲(オーム)の表現が話題に。
超歌舞伎(今昔饗宴千本桜など)中村獅童と初音ミクが共演。NTTの最新技術を用いた、デジタルと古典の融合。

演技様式による分類

荒事

荒事の特徴

荒事は、リアリズムよりも「誇張」を重視します。遠くの客席からも一目で「この人は並外れて強い!」とわかる工夫が凝らされています。

誇張された衣装: 肩が極端に張った「車引」の衣装など、体を大きく見せる工夫がされています。
隈取(くまどり): 顔に赤や青の筋を引く独特の化粧。
見得(みえ): 感情が高まった瞬間に、ポーズを決めて静止する動作。
六方(ろっぽう): 花道を退場する際、手足を大きく振って豪快に歩く(走る)演出。

代表的な演目

「歌舞伎十八番(市川家が選定した18の得意芸)」に多く含まれています。

演目名特徴
暫(しばらく)「しばらくー!」という声とともにヒーローが登場し、悪党を一喝する。荒事の決定版。
勧進帳(かんじんちょう)武蔵坊弁慶が主君を守るために奮闘する。力強さと知性を兼ね備えた荒事。
矢の根(やのね)曽我五郎が大きな矢を研ぎながら、仇討ちの決意を固めるユーモラスで力強い一幕。

和事

和事の特徴

和事は、お相撲さんのような強さではなく、「優美さ」や「リアリティ」を大切にします。

つっころばし: 和事の典型的なキャラクター像です。育ちが良く、色男でモテるけれど、少し芯がなくて頼りない。「後ろから突っつかれたら、そのまま転んでしまいそう(つっころばし)」なほど儚げな男性を指します。
柔らかな動き: 膝を軽く折り、身体をくねらせるような、しなやかで優美な所作が特徴です。
白塗り: 荒事のような派手な隈取はせず、基本的には真っ白な白塗りに、ほんのりと赤みを差した、都会的で美しい顔立ちにします。

演目名特徴
『心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)』近松門左衛門の傑作。紙屋治兵衛と遊女のおさんの悲恋を描きます。
『廓文章(くるわぶんしょう)』伊左衛門という若旦那が、恋人の夕霧に会いにいく物語。和事の代表作です。
『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)』近松門左衛門が実話をもとに人間の底知れぬ愛の深さを描いた、美しくも悲劇的なラブストーリー。

所作事(舞踊)

所作事の特徴

お芝居の中に組み込まれている場合もあれば、独立した一つの舞踊劇として上演されることもあります。

女方(おんながた)の真骨頂: 男性が女性を演じる「女方」にとって、その美しさを最大限に発揮できるのが所作事です。
「地」を歌う長唄(ながうた): 俳優がセリフを言うのではなく、舞台後方の演奏陣(唄や三味線)が状況や心理を歌い上げ、それに合わせて俳優が踊ります。
引き抜き(ひきぬき): 踊りの最中に、一瞬で衣装が変わる仕掛け。糸を抜くだけで外側の着物が落ち、全く別の衣装に早変わりする演出は、所作事の大きな見どころです。

演目名特徴
『京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)』歌舞伎舞踊の最高傑作。一人の女性が恋心を抱きながら、次々と衣装を変えて踊り狂います。
『連獅子(れんじし)』親子の獅子が長い毛を「ブンブン」と振り回す(毛振り)有名な演目。これは荒事の要素も入った所作事です。
『藤娘(ふじむすめ)』大津絵から抜け出した藤の精が、美しく舞う幻想的な作品。

共通題材による分類(〇〇物)

曽我物

「曽我物(そがもの)」とは、鎌倉時代に実際に起きた「曽我兄弟の仇討ち」という歴史的事件を題材にした演目の総称です。

江戸時代の庶民にとって、曽我兄弟は「日本三大仇討ち」の一つとして英雄視されており、歌舞伎の世界では「お正月には必ず曽我物を上演する」という特別な習慣(寿曽我対面)があったほど、切っても切れないジャンルです。

演目名特徴
『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』正月の定番。兄弟が仇の工藤と対面する、様式美にあふれた儀式的な一幕。
『矢の根(やのね)』荒事の代表作。五郎が大きな矢を研ぎながら寝てしまい、夢で兄の危機を知って馬(裸馬)で駆けつける。
『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』実は主人公の助六は曽我五郎の仮の姿。吉原を舞台にした、江戸歌舞伎の最高傑作の一つ。

仇討物

「仇討物(あだうちもの)」とは、家族や主君を殺された者が、その犯人に復讐を果たす物語の総称です。

江戸時代、武士にとって仇討ちは「義務」であり、庶民にとっては「究極の勧善懲悪」として熱狂的に支持されました。以前ご紹介した「曽我物」も、この仇討物という大きなカテゴリーの中に含まれます。

題材演目名(代表例)特徴
曽我兄弟の仇討『寿曽我対面』など鎌倉時代が舞台。兄弟愛と様式美が中心。
赤穂浪士の復讐『仮名手本忠臣蔵』47人の武士による集団復讐劇。歌舞伎の王様。
鍵屋の辻の決闘『伊賀越道中双六』荒木又右衛門が助太刀した、日本最大の仇討ち。

松羽目物(能取物)

「松羽目物(まつばめもの)」とは、能(のう)や狂言(きょうげん)の演目を歌舞伎に取り入れた形式のことで、一言でいえば「歌舞伎で演じる、格調高い能・狂言リメイク作品」です。

最大の特徴は、舞台の背景に大きな「松の木」が描かれた板壁(羽目板)をそのまま使うことにあります。

ルーツ演目名特徴
能から『勧進帳』 (かんじんちょう)松羽目物の最高傑作。義経と弁慶の安宅の関越えを描く。
『連獅子』 (れんじし)親子の獅子の情愛と、豪快な「毛振り」が見どころの舞踊劇。
狂言から『身替座禅』 (みがわりざぜん)浮気のために家来を替え玉にする主人のコミカルな騒動。
『棒しばり』 (ぼうしばり)両手を棒に縛られた二人の家来が、工夫して酒を盗み飲む滑稽な踊り。

廓もの(くるわもの)

「廓もの」とは、遊廓を主な舞台とした演目の総称です。

身分違いの恋、義理と人情のぶつかり合い、遊女たちの哀しみと誇りが描かれ、世話物と重なる作品も多いジャンルです。

演目名特徴
『籠釣瓶花街酔醒』吉原の名妓に入れ込んだ男の、静かな怒りが爆発する凄絶な幕切れ。
『曽根崎心中』追い詰められた男女が心中を遂げる、近松門左衛門の傑作。
『助六由縁江戸桜』吉原を舞台にした江戸歌舞伎の最高傑作。
『阿古屋』三曲を実際に演奏する「三曲責め」が見どころ。
『廓文章吉田屋』上方和事の代表作。若旦那と遊女の温かいやりとり。
『鰯売恋曳網』三島由紀夫作。鰯売りが大名に化けて廓へ乗り込む喜劇。

▶ [廓ものの演目まとめ記事はこちら]

成立過程による分類

丸本物

「新歌舞伎」や「松羽目物」が他ジャンルのリメイクであるように、「丸本物(まるほんもの)」もまた、別の芸能から取り入れた演目のことです。

一言でいえば、「人形浄瑠璃(文楽)の名作を、歌舞伎に移植した作品」のことです。

演目名特徴
『仮名手本忠臣蔵』47人の武士の忠義と犠牲を描く、歌舞伎の王様。
『義経千本桜』源平合戦の敗者たちの悲劇と幻想的な物語。
『菅原伝授手習鑑』親子の別れや、忠義のために我が子を犠牲にする究極の悲劇。

純歌舞伎

「純歌舞伎(じゅんかぶき)」とは、一言でいえば「最初から歌舞伎俳優のために、歌舞伎独自の演出として書き下ろされた演目」のことです。

他の芸能の制約を受けず、「いかに俳優をカッコよく、美しく見せるか」に特化して作られた、いわば「生粋の歌舞伎」です。

演目名ジャンル特徴
『助六由縁江戸桜』荒事・世話物江戸歌舞伎の最高傑作。主役の助六が登場するだけで30分近くかける、究極のスター演目。
『暫(しばらく)』荒事「しばらくー!」の一喝でヒーローが登場し、悪党を蹴散らす。理屈抜きのカッコよさ。
『弁天娘女男白浪』世話物(白浪物)美少年の泥棒が女装して暴れ、正体を明かす。セリフのリズムが心地よい。
『東海道四谷怪談』世話物(怪談)鶴屋南北の傑作。仕掛け満載の早替わりや、おどろおどろしい演出が特徴。

新歌舞伎/新作歌舞伎

前述の通り近代以降に創作された作品です。

伝承・家による分類

歌舞伎において「家の芸(いえのげい)」とは、特定の俳優の家系(屋号)が代々得意とし、家伝の宝として大切に守り伝えてきた「専売特許のような演目や型」のことです。

歌舞伎は血縁や師弟関係による「家」の継承を重んじる芸能であるため、その家ならではの「味」や「秘伝の演出」がブランド化されています。

▶こちらで家の芸について詳しくまとめてます。

歌舞伎のジャンルまとめ

歌舞伎は、「時代」「演技様式」「題材」「成立過程」「家の芸」など、複数の視点から分類できる演劇です。

ひとつの作品がいくつものジャンルにまたがることもあり、
その重なりこそが歌舞伎の奥行きでもあります。

ジャンルを知るだけで、作品の見え方は大きく変わります。

ジャンルを理解することは、
自分に合った作品に出会うための近道でもあります。

ぜひ、自分の好みに合うジャンルから観てみてください。
そこから、歌舞伎の世界は自然と広がっていきます。

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